第二章~新たなるレンジャー登場! 転校生来たる

第二章〜1

 椅子いすすわっている池田くんは、わたしの動きをあやしいもののように見上げた。

「このダンス知らないの? めちゃくちゃ流行はやってるよ」

「……知らないです」

「なんで敬語」

 うつむいて小さくなる池田くんを、私は見下ろす。 

「もしかして、最近ゲームさそわなくなったのきずついてる?」

 はるちゃんの件で、松本さんと仲良くなった結果、三組の子とゲームしているんだよね。

 ちなみに一組はまだいない。友達はまあまあいるけど、ゲーム仲間はいない。なぜだー。

 池田くんは顔を上げて、首をふるふる振る。

「それは全然問題ない。全く問題ない」

「そこまで言うと誘いたくなる!」

ぼくも付き合いがあるので、たまにはいいけど前のように毎日はちょっと」

「もう誘わない! それよりもさ、本当に星々ほしすた希良里きらりやマーキュリー知らないの?」

「知らないよ……。なんかさ、岡崎さんの学校やA区って変わってるね」

 眉をひそめる池田くん。

「バーチャルアイドルと覆面ふくめんシンガーソングライターだよ! M区でも絶対有名だよ!」

 クラスの友達とは主にこういう話題で盛り上がってるけど、池田くんは首を振る。

「……そういう動画見ない」

 納得いかない池田くんの後ろは、いつも通り黒地に何色もの文字でチカチカしてる。

 わたしはひらめいた。

おどろ! ここなら加工いらないし、電脳世界をすくうには流行はやりのアンテナもいるよ?」

「……いやだ。デジタルタトゥー怖い」

「言うと思った。親に禁止きんしされてるから、池田くん以外に送らないしさ」

「データ流出……」

 そこに、今日もダンドリボコ一直線いっちょくせんのピンク色のカバが視界しかいに割り込んできた。

「こら、ソコのデコボコ。そろそろダベりは終了さっ」

「え-、練習れんしゅう終わったし、後は解散かいさんでしょ?」

 わたしはTシャツにキュロット。池田くんはエリとボタンのついたシャツにハーフパンツ。二人共私服に戻っている。思念体しねんたいだけど、気持ちの問題だ。

「ところがドッコイ。新しいレンジャー候補こうほわなにかか……いや、見つかったのさ!」

 わたしと池田くんは顔を見合わせた。つまり、メンバーが増える!

対象たいしょうしゃ電脳でんのう世界せかい転移てんいさせる。キミたちはダベらず待っていてくれ」

 ヒポタンの近くに三角座りしたら、池田くんが手で口元をかくして、話しかけてくる。

「……さっき罠って言わなかった?」

「言っちゃいけない。二人体制はキツイしどうにかしたいし」

「え……、僕、力不足……?」

「違う違う! 一人ずつじゃ足りないってことだよ! 他の犠牲者ぎせいしゃはほしい!」

 そう。この前勝てたのは運が良かっただけだ。メンバーがもう一人いるだけで楽になる。

「それならいいけど、犠牲者って」

「だから、ダベるナ! デコボコ!」

 わたしと池田くんが両手で口をかくすと、ヒポタンが両前足を広げうなり始めた。

 その間に光が集まった後、甲高かんだかい声で、ヒポタンが叫ぶ。

あらたなる電脳レスキューレンジャーよ! マイグレーション!」

 光は何倍もの大きさになった。まぶしすぎて何も見えない!

 ……おさまったころに目を開くと、同じ年くらいの男子がいた。わたしよりも背が高い。

 緑色のスポーツブランドのTシャツと白いハーフパンツ。切れ長の瞳や短髪たんぱつすずやかだ。

 黒地くろじ半球はんきゅう+チカチカな光よりも、青空の下でボールをる方が似合う。

 そんな、イケメンサッカー少年(イメージ)が、口をぽかんとあけている。

 わたしたちもこうだったよねと、となりの男子を見るが、こちらも同じ表情をしていた。

「あれ……、じょう君?」

「い、池田?」

 見つめ合う、さわやかなサッカー少年とコンピューター少年の池田くん。

 城くんという男子は、池田くんとわたしとヒポタンを見渡みわたした。

「池田と……かわいい女子と……カバ……?」

 かわいいって言われたけど、言われれない言葉を知らない男子が言うとぞわっとする。

「このかわいい女子はもしや池田の彼女か?」

「ち、ちがう!」

 わたしが大慌おおあわてで両手を振っている横で、池田くんはしずかに答える。

全然ぜんぜんちがう。共同作業者」

「そうか。ならいいや」

 か、彼女ではないけど! 池田くんの冷たすぎる言い方にあきれながら確認する。

「知り合い?」

「う、うん。一、二年の時同じクラスだったじょうたすく 君。サッカーが上手ないい人だよ」

「同じ学校か。うちの市大きいのにずいぶんせまい世界だね、ヒポタン」

「S市北部支部だからねっ。必然的ひつぜんてきせま範囲はんいの仲間になるのダヨ!」

 ふーん。任期にんきの関係で小学五年生を選ぶとは言ってたけど、知り合いとはせまい世界だ。

「そ、それ、僕、気になっていたけど、南部はまた別なの?」

「モチのロン! 初期メンはたまたま南部しかいなくてネ。でも北部が最近キナ臭くて手が回らなくなりそうだカラ、専任を作ろうという話になり、ボクが担当としてメンバー集めなうな時分に網に引っかかったのがキミ達さ!」

 そっか。南部の人はヒポタンじゃないのか。いつか会えたら、うらやましいと言おう。

「くそっ、状況が分からないけど、俺はそれどころじゃないのに、池田がかわいい女子とくっちゃべっているのはムカつく」

 城くんは本当にいい人なのだろうか。

「落ち着きたまえ。電脳レスキューレンジャーになれば、老若ろうにゃく問わずモッテモテだヨ!」

「えっ、モッテモテ!?」

 ヒポタンのうさんくさい勧誘かんゆうの言葉に、城くんは食いついた。イケメンなのに……。

 真剣しんけんに説明を聞く城くんをながめながら、わたしは池田くんに確認する。

「……本当にいい人?」

「え? 城君はちょっと女子が好きすぎるだけで、普通ふつうに優しいいい人だよ」

「女子が好きすぎる?」

「うん。ほら、岡崎おかざきさんがかわいい――」

「か、かわいいなんてっ!」

 わたしは恥ずかしくて両手で口元をかくす。

「いや、僕じゃなくて、城君が言ってたでしょ」

「えっ? あ、うん……」

「よく、色々な女子に言ってるよ。生徒はもちろん、給食調理員さんや校長先生まで」

「校長先生!」

「あ、校長先生は女の人で」

「それは分かる。つまり」

「うん。だれでもかれでもかわいいと言う人だよ」

 そんな人にかわいいと言われたわたしは何なんだ。わたしの表情に池田くんは慌てる。

「で、でも……、全員をブスだと言うよりいいと思うよ!」

「いや、城くんじゃなくて、わたしのフォローをしようよ」

「え、あ……。ごめんなさい」

 池田くんはいつものようにちぢこまり、そうしているうちに、ヒポタンの説明は終わった。

「分かった! つまり俺は、被害者を助けて、モッテモテになるんだな!」

「そうそう! 好きなあの子のハートをゲットだぜっ!」

 あのカバはいったいどういう説明したの?

 和気わきあいあいの二人は、さっそく衣装いしょう合わせをし始めた。緑のいろだ。

 池田くんの色違いろちがいを身につけた城くんは、やっぱり青い空が似合にあうさわやかイケメンだ。

 わざを出す道具は緑色のスマートシューズというものらしい。機械きかいがついているんだって。城くんにあわせてサッカーシューズの形だけど、何かボタンがついてごちゃっとしている。

「いや-、突然とつぜんこんなところに来てどうなるかと思ったけど、本当にちょうどいいよ!」

「おお! タスクはそこのデコボコとちがって何て協力的きょうりょくてきなんだ!」

「いやさ、実はおれ、解決したいことがあるんだ」

 そこで城くんの表情がキリッとする。

「おれのクラスの転校生の女子がすっげーかわいくてさ」

 池田くんの肩がぴくりと動いた。そして、おどおどと言う。

「……一組の転校生って、水野みずの詩絵留しえるだよね?」

 食い気味で城くんが池田くんの両肩を掴む。

「そう! おー、池田、案外すっげーかわいい女子に興味あるんだな!」

「いや、興味というか――」

 池田くんの言葉は止まる。城くんが肩をつかんだまま前後に大きく揺らしたからだ。

「池田が知っているなら話が早い! おれは彼女を助けたい!」

 ガクガクと揺らされて眼鏡めがねがずれ始めた池田くんの顔がくもる。

「え……、し、水野詩絵留に何かあった……の……?」

「そうだ! このままでは大変なんだ!」

「えっ……し、水野詩絵留が!」

「そうだ! 危機なんだ! あんなすっげーかわいいのに!」

「み、水野詩絵留……!」

 頭をがくんがくんされながら、『すっげーかわいい』転校生の名前を連呼れんこする池田くん。

 ……ここでしか会わないから気づかなかったけど、池田くんも気になる女子いるんだね。

 わたしがそんなことを考えている間に、城くんは説明し始めるのだった。

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