第16話 アラサーとJKと外出許可
「いただきます。」
「いただきます。」
二人手を合わせて、朝食をとる。
「今日はパンなんだな。」
「うん、丁度昨日でご飯使い切っちゃったから。だから今日のご飯はサンドイッチだけど、大丈夫?」
「おう、ありがとな。」
「いやいや、気にしないで。」
凛は何もつけずにそのままトーストに齧りつく。今日の飯はトーストとウィンナー、目玉焼き。ごく一般的なメニューだ。俺もトーストを齧る。うん、絶妙な焼き加減だ。外はサクッと中はふわふわ。
「今日のパン旨いな、どっかのパン屋とかで買ってきたのか?」
「普通にスーパーで一番安い奴だよ、っていうか買ってきたの新田さんでしょ?」
それもそうだった。
「にしても、どんどん料理の腕があがっていくな。」
ウチに来て彼女が料理をしてくれるようになって少し経つが、彼女の料理はどんどんうまくなり、少し凝った料理も作るようになっていた。
「こんな適当あご飯でそんなこと言われたくないんだけど。」
「いやいや、こういう単純な料理でこそ、実力が出るんだよ。」
まあ、俺は料理できないんだけど。
「まあ、料理に凝るのって楽しいし、結構いい暇つぶしになるから……。うわっ、思ったより柔らかかった……」
目玉焼きの黄身を割りつつ、半熟度合いに不満をこぼす凛、半熟が好きな凛だが、形を保てないくらいなのは好きではないらしい。ちなみに俺は火が通り切っている方が好きだ。
「凛も、外に出かけたりしてもいいんだぞ?別にそういうのを気にするような関係でもないし。それともゲームとか何か買ってやろうか?」
この部屋は正直そんなに広くはない。二人で暮らすには十分な広さだが、あくまでも元々俺が一人で済むように借りた部屋だ。女子高生が見て楽しいものもないだろうし、俺が仕事に出ているとき、凛も暇だろう。
「え?あっ!暇つぶしっていうのはそういう意味じゃなくて、いや、ホントに、料理とか、家事するの楽しいよ?」
そうは言いつつも、先ほど言った暇つぶしという言葉が正直な気持ちだろう。俺も何とかしてあげたい気持ちはあるのだ。
だが俺も女子高生が楽しめるようなことは知らない、変に興味がないものを買ってあげても凛は喜ぶそぶりはするだろうが、根本的解決にはならない。色々と考えたが、自由に外出させてあげるくらいの案しか思いつかない。
「あー、じゃあ、また一緒におでかけしたい!」
「いや、俺が言いたいのはお前が一人の時に暇だろうから……。」
「分かってるよ、でも一緒に出掛けたいんだよ、一人で出歩くと、またナンパされるかもしれないよ?」
ぐっ、ナンパの件について突っ込まれると少し痛いが……。まあ本人がそれで良いならいいのかもしれない……、ホントか?
「っていうか、次っていつお休み取れそうなの?」
「あー、まあ、今度の日曜は休みとれると思う、多分。」
「働きすぎなんじゃない?普通は土日どっちも休みなんでしょ?」
目を細めて聞いてくる凛。
「それは公務員とか、そういう系の仕事の人。普通のサラリーマンは必ずしも土日が休みとは限らない、別の曜日なこともあるんだ。」
「へ~、そうなんだ。」
「そう、だから凛は将来、完全週休二日制の会社に勤めろよ……。」
「何か分かんないけど、よく分かった……。」
目は細めたまま、少し慈しむような目線に変化する凛。別に、俺はこの仕事に満足してるからな?将来がまだわからない彼女への助言にすぎない。
「っていうか、日曜は空いてるんだよね?また一緒に外食したいんだけど……大丈夫?」
「ああ、無問題だ。」
「そう?よかった。」
安心したようにほっと胸をなでおろす凛。
「ちなみにどこか行きたい店でもあるのか?一応言っとくけど、あんまり女の子っぽいお店は俺は勘弁だからな。」
「うーん、そうだな、あ!この間新田さん飲みに行ったんだよね?そのお店に行ってみたい!」
「さすがに10代を居酒屋には連れてけない、却下だ。」
「なんでよ。」
「何でもだ。」
今どきはランチ営業しているところも多いが、とはいえ10代の少女をあえてそういう店に連れて行くのはいただけない。
「ちなみに一緒に行ったのどんな人?会社の後輩の人だっけ?」
「おう、もともと教育係をやってたんだけど、中々仕事も出来るし、愛想もいいしで優秀な奴だよ。」
その分やかましいしそれなりに酒癖も悪いことが判明したが……。凛はこぼれた目玉焼きの黄身を、パンで拭いながら聞いてくる。
「ふーん、ちなみにどんな感じ?かっこいい?」
カッコいい?水原が?
「いや、かっこよくは無いな、そもそもあいつ女だし。」
「ふーん、女の人なんだ。」
「おう、前お前が弁当作ってくれた時があっただろ?そん時もそいつ、彼女が出来たんじゃないかってうるさくてな。」
「そう……」
あれま、笑い話にしていくつもりが凛の反応は悪い。そのまま凛はペースを上げて残っていたパンとウィンナーをパクパクと食べ、そのまま皿を片付ける。何か気に障る様な事を言っただろうか。
「おい、どうかしたか。」
「いや、別に。っていうか新田さんそろそろ会社行く準備しないとじゃないの?」
そう言われて時計を見ると普段ならもう既に着替え始めているような時間、俺も焦って朝飯を食べ、手をふきそのまま自分の部屋に戻りつつジャージの裾に手をかける。
「はい、これ今日のお弁当。」
「お、サンキュ。」
有り難く弁当をいただくが、凛とはイマイチ上手く目線が合わない。
「着替えながらでいいんだけど、さっきの話、」
ん?どの話だ?困惑しつつも着替え中のため、あまりちゃんと話を聞けない。
「一人で外出する話だけど、一人で近くのスーパーまでくらいなら、行きたい、かも……。」
こちらを窺うように聞いてくる、俺としてもこれは喜ばしい限りだ。だが、その割には声のトーンが低い。
「そうか!そりゃよかった!」
「で、でも!出かけるときは、私ちゃんと言うから!」
焦ったように言う凛。思春期の子が親と権利交渉するときって、多分こんな感じなんだろうな。
「そうだな。帰ってきて突然いなくなってたら、不安だし。」
「そ、そっか、不安なんだ。」
少し声のトーンが上がったように聞こえる。っていうか着替え中に話しかけられるとイマイチ表情が分からん。現に今ジャージの首から脱いでる。下着着てるとは言え、なんか恥ずかしいな。
「まあ、俺は保護者として、お前をきっちり面倒見る責任があるからな。」
そう答えたが、シャツのボタンを閉じていても凛の返事は聞こえない。
「どうかしたか?」
「ううん、なんでもない。」
凛の方を向くと、何か考え事をしていたのか、ぱっとこちらに顔を向ける。
「あ!そうだ、それだったら折角だし、今日お買い物行っちゃおうかな~丁度贖罪も少なくなってきたし~」
「お、いいじゃないか!気分転換になるといいな。」
凛が自発的に何かしようとしてくれているのはいい傾向だ。俺も一緒に喜ぶべきだ。
「うん……。」
そして俺は凛から弁当を貰い、会社へと向かって行った。
しかし、凛と仲良くなれたのだと考えていた俺は凛がこの時何を考えていたのか、この外出がどんな結末をもたらすのか、全てに対して、
————余りに、無責任だったのだと知るのは、全て手遅れになってからだった。
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