第7話 JKは実用>>>>趣味
翌日、俺達は話し合った通りに一緒に近くのデパートまで買い物に向かった。最近の気象はやはりおかしいのか、まだ4月だっていうのに外は初夏の様な気温だった。
「なあ、その格好暑くないか。」
「ううん、大丈夫。ありがとう」
凛は俺の貸した白い無地のパーカーを着ていた、少し大きいかと思ったが、オーバーサイズのと言った感じで違和感なく着こなしていた。素材がなせる業、と言った感じで飾らない可愛さが発揮されていた。
「とりあえず何か聞かれたら、年の離れた兄弟ってことにしとけばいいんだよな?」
「うん、それで大丈夫。」
これは凛と車内で決めておいた事。あまりない思うが、もしも店員に聞かれた時にしどろもどろになると、今どきパパ活とかを疑われかねない。まあ、聞かれて答えられないような関係性であることがそもそも問題だと言われればその通りなのだが、それはもうどうしようもない。という事で凛と話し合った結果、「年の離れた兄弟」という事にした。俺達くらいの年齢差であれば、ありえなくもないだろうし、仲のいい歳の差兄弟が、妹のお祝いで買い物に来ているというシチュエーションが凛的には一番楽に誤魔化せるとのことだった。
「よし、じゃあ行くか。」
「……うん。」
車から荷物を取り出し、凛の方に顔を向ける。凛はいつものように平然とした表情をしていたが、目線じっとデパートの方を見て、拳はギュッと固く結ばれていた。
「今日は好きなもの何でも買っていいぞ。」
「ほんと!……いや、新田さんのお金なんだし、必要最低限の物だけで大丈夫だから。」
「はは、確かにそうかもな。」
ぱあっと顔を輝かせた後に、すぐにいつも通りのすまし顔に戻る。凛も年相応の高校生らしい顔をするんだな。
「何でにやにやしてんの」
「いや、別に何も?」
「……まあいいけど。」
そして俺達はデパートへと向かって行った。
なんだかんだ俺も久々にここ来たが、相も変わらず人でごった返して、賑わっている。だだっ広い通路には人の対流が完成している。
左右を眺めて人越しに店をのぞいていると、丁度店先で服を畳んでいた女性の店員さんと目が合い、にこりと笑いかけられる。俺もそれに併せて笑い、凛の方に向き直る。
「あー、で、まずはどこに行く?あの服屋とか覗いてみるか?」
「いや、それはまた後で。まずはこっち。」
俺の提案はすげなく断られ、きょろきょろしている間に、凛には目的の場所があったらしく、まっすぐ進んでいく。俺は店員さんにまた来ますといったニュアンスのお辞儀をし、その場を去った。そして俺達がたどり着いたのは……エレベーターホールにたどり着いた。
「何か上の階に行きたいお店でもあったか?」
「いや、そうじゃなくて……これ」
凛が指をさしたのは、エレベーターではなく、間にあるフロアマップだった。
「効率的に回るには、どこから回るか知っとかないとだめでしょ。で、えーっと、このお店は4階で、服はここで良くって……」
そう言いながら凛はそのままどこから取り出したのかメモを取り始めた。
(「別に時間はあるんだからゆっくりでもいいんじゃないか……と言いたいが、こうも真剣だと、何も言えないな……」)
一通り目を通し終わったのか、凛はペンをしまい、こちらに向き直る。
「終わったか?」
「うん、取り敢えず、3階!」
「じゃあこのままエレベーターにでも乗るか。」
そのままエレベーターに乗り、俺達が向かった先は……。
「ニ〇リ……?」
「そう、ニ〇リ!」
某超大手家具メーカーさんだった。
「ってなんでだよ!」
「何?新田さん不満?」
何かおかしなことでもあるかとばかりにきょとんとした顔をする凛に対して、思わずツッコんでしまう。
「いやいや、別に不満とかそんなんじゃないけどな……初っ端から家具屋っていうのは華がないし、なんかこう、服屋とか、雑貨とか、ほら……、何かあるだろ?」
「そんなのより今は必需品。華より実のあるものを買わないとだめでしょ?」
「お前ホントに女子高生か……?」
自分より一回りも若い子にたしなめられ、俺が我が儘を言っているみたいな恰好になる、何でだよ。
「必需品が大事なのはわかるけどさ……。何買うんだ?」
「まあそれは見ててよ、ちゃんと買い物リスト作ってるからさ。」
じゃーんと言わんばかりにメモ用紙を見せてくる凛、さっき書いていたマップのメモと同じ紙だが、内容は違う、むしろこっちの方が黒々としている。
「じゃあ、俺はカゴ持ってるから、好きなもの入れていけ。」
「ホント!?やったー!」
キラキラと目を輝かせる凛、お前服屋を勧めた時よりよっぽど嬉しそうだな……。まあ、本人が楽しそうならそれでいいか。
******
「まだ他に買うものあるか?」
「あー、最後にフライパンだけ見せて……」
「お、おうじゃあ、こっちだな。」
店に入ってからしばらくの時間が経過したが、凛の買い物はまだ終わらないようだった。長時間滞在しすぎて、凛があまりに真剣にものを選ぶものだから、店員さんからも一時的な顔見知りみたくなり、逆に俺達の関係は特に不審がられることも無く、最早挨拶もされず、お好きにご覧下さい~って感じになっていた。しかし、カゴに入っている物と言えば、弁当箱、茶碗、水筒、その他調理器具等etc……
「殆ど俺の物か、調理器具だな……」
色も黒っぽい物ばっかりだし、恐らく俺が使う用の物なのだろう。こないだ使ってた弁当箱も大分古い奴だったしななんだか申し訳なくなる。
「弁当箱とか、俺のばっかり買ってもらっちゃってなんか悪いな。」
「ううん、全然!私料理好きだし、それに、私、誰かのために料理作るのとか、初めてだったから。なんていうか……すごい、楽しい。」
「そうか……」
「あ、それに、こんだけ買ってるけど、一応お金の事は考えてるから、そこは心配しないで、いいから!」
「ああ、分かってるよ。」
照れ隠しの様に一気に話す凛、彼女の言う通り悩んでるだけあって質と額のバランスは考えられているのだろうし、俺の負担を考えてか軽いもののから順に籠の中に入れてくれている。
「あー、どうしようかな、お兄ちゃんは、これどっちがいいと思う……?」
「……」
「ちょっとお兄ちゃん、聞いてる?」
「あ、ああ、俺か。うーん、俺は違いとか分からないしなぁ、凛の手になじむ方でいいぞ。」
「何それ、全然参考になんないし。」
危ない危ない、そういえば今俺は凛の年の離れた兄という設定だった。しかし妹か……俺には妹はいなかったから、なんだか感慨深い。
「私ちょっとこれどっちがいいか店員さんに聞いてくる!」
「おう、じゃあ俺は隣りのコーナーうろついてるから。」
すたたっと凛は店員さんを呼びに行く。凛に声をかけられた女性店員は、にこやかに凛に対応し、俺の立っているフライパンコーナーへとやってくる。俺が少し申し訳なさげにぺこりとすると、彼女も家々と言った感じの表情をして、凛にどっちが売れてるかなど説明を始めた。俺は完全に一人取り残され、隣り側のコーナーに行き、観葉植物を眺めていた。時々凛たちの様子を覗くと、まだ話し込んでいる様子だった。なんか思ったより盛り上がってんな、フライパン談義。そんなに話すことがあるんだろうか……。あ、このとがった葉っぱの奴、実家に置いてあったな……。
「意外と値段するんだな、これ……」
「何が?」
しばらく帰っていない実家の事に思いを馳せていたら、凛が帰ってきた。手にはウチにある物より少し大きめのフライパンが抱えられてあった。
「いや、なんでもない。それよりフライパン、それでいいのか?」
「うん、あんまり大きすぎても使いずらいしね。」
カゴに入れながら凛は話す。
「ずいぶん時間かかってたけど、店員さんと何話してたんだ?」
「んー?えーとね、あーそうだ、素敵なお兄さんですね、って言ってたよ。」
「そうか……案外通るもんなんだな。」
凛もこれで買い物が終わりだというので会計をすます。買ったものの量の割に彼女の言う通り、案外値は張らなかった。
「思ったよりいろいろ買っちゃった……ゴメン。」
一通り袋に詰め終わると、予想以上に袋はパンパンで、下手な持ち方をすると今にもはちきれそうだった。
「ごめん……思ったより量増えちゃったね」
「気にすんな、料理してくれるのは凛なんだから、凛の好きなように買えばいいよ。」
凛はありがとうと、少し申し訳なさを出した表情でぺこりとお辞儀をする。俺もなんとなく気まずく、ふと時計をみると丁度昼時だった。
「よし凛、一旦昼飯にしないか?」
「あー、お昼ご飯、いいね!」
お互いに少し大きめにリアクションを取る。
「よし、俺一旦車に荷物置いて来るわ。凛はそこで何食べたいか考えててくれ。」
「オッケー、了解しました!」
「じゃあ、散開!」
おどけてピシっと敬礼をする凛に合わせて、俺達は分かれた。
*******
取り敢えず荷物を車に乗せ終わり、俺は再びデパートへと戻った。エスカレーターを上っていると、男女二人ずつの4人組が目に入る。しかし傍目に見て4人は友達同士と言った感じではなく、明らかに女子の方は嫌がっているようにも見える。
(「何だあれ、今どきナンパか?」)
というか、女子の方には何となく見覚えが……
「ってあれ、凛じゃねぇか!!」
前の人々がびっくりしてこちらを振り返るがそんなの気にしている余裕はない。俺は思わずエスカレーターを駆け上がっていった。
「すいません……横通らせてください……!」
しかし一段に二人横で並んでいる人もおり、思うように上手く前に進めない。
やっと上ったと思ったが、凛たちがいるのは反対側ですぐにはたどり着けない。こういう時に体力の衰えを露骨に感じる。凛の所にたどり着いたときには、既に彼女は一人になっていた。
「凛!大丈夫か!」
「あー、うん、大丈夫。っていうか、すごい息あがってるけど、新田さんの方こそ大丈夫?」
「ああ、エスカレーター登ってたら、お前が絡まれてるのが見えて、急いできたんだが……アイツらに、何かされたか!?」
「何かって、そんな大げさだよ。あの人たちもデパートの中で変なことする度胸無いよ。唯ナンパしてきただけ。」
へらっと笑う凛に力が抜け、その場にへたり込む。ナンパされただけなことは無いと思うが、それを今更指摘する気力は残っていなかった。
「それに、カッコいいお姉さんが助けてくれたから、全然怖くなかったよ。」
そういえばそうだ、あの場には凛と男二人だけでなく、もう一人女性がいた。
「私がナンパされて困ってたら、すっと出てきて、私の妹に何か用!って言って、そのまま追い払ってくれたんだ。」
「へえ、世の中捨てたものじゃないな。名前とか聞いたのか?」
「ううん、友達待ってたみたいで、お礼しますって言ったら、『こんな可愛いあなたを一人にしてる彼氏に説教しといて!』って言って、颯爽とどっか行っちゃった。」
その人も中々アクの強い人だな……。
「まあ、向こう同じデパートにいる訳だし、会えたらまたお礼でも言うか。」
「そうだね。」
凛が無事だったことにほっとしつつ、俺達は昼食へと向かうのだった。
***********
???「あー、カオリ~こっちこっち」
???「ちょっと、どこ行ってたの。トイレ行って帰ってきたらいないからびっくりしたよ。」
???「ごめんごめん、ちょっと人助けしててさ。」
???「え、何?おばあちゃんでも倒れてた?」
???「いや、ちょっとナンパ男たちを撃退してきた。」
???「え、それ大丈夫だったの?アンタ何もされてない?」
???「大丈夫だよ、びしっと言って来てやったから、ナンパ男にも、JKにも。」
???「楓子はいっつも余計なことに首突っ込むからな……、まあ大丈夫ならいい けど。」
???「にしても可愛い子だったなあ、今度会ったら連絡先教えてもらお。」
???「アンタがナンパしてどうすんのよ、ほら、もうすぐ映画始まっちゃうから、早く行くよ。」
???「あ、ちょっと待ってよー。」
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