第4話

 そんなわけで、二人は近隣のショタコンがショタの森と呼称する、森正太郎記念公園にやってきていた。


 気の早い読者はサクッと読み飛ばして構わないのだが、ショタの森は地元の有力者である森正太郎氏が青少年の健全な肉体と精神の育成を目的に建設した大規模な緑地公園だ。


 辺りは豊かな緑に囲まれて、ザリガニの釣れる綺麗な小川や遊歩道、アスレチックに児童館など、子供達が楽しめる場所になっている。


 放課後のチャイムと共に近隣の小学校から大勢のショタが集まる様は、まさにショタの森。かくいう結愛も暇さえあればショタの森にくり出して、パトロールがてら日々ショタウォッチングに勤しんでいる。しばしばショタコンの暗黒面に落ちた変質者が出没するのはご愛敬だ。


 二人がいるのはショタの森をぐるりと回る遊歩道の途中である。


 半袖短パンの体操服に着替えた結愛は、手慣れた様子でうんしょうんしょと準備運動を行っている。サイズが合っていないのか、上も下もパツンパツンだ。前屈なんかした日にはジャージの生地がパンパンに伸び切って、ムチっとしたお尻の形が丸わかりだ。


 こんな傍若無人な陽キャギャルなんか全然好きじゃない成だが、大きなお尻は大好きだった。


 絶対に見るもんか! と思いつつ、隙あらばチラチラと盗み見てしまう。


 く、悔しい! でも見ちゃう!


 普通はバレそうなものなのだが、結愛は結愛で真面目に準備運動をしている振りをしながら、高校生と呼ぶにはあまりにも未成熟な成の身体を股の間から視姦していた。


 ウットリする程白い肌、筋肉不足の細い四肢、それでいて全体的にプニッとしていて、赤ちゃんみたいに柔からそうな素肌には無駄な毛なんか一本も見当たらない。ツルッツルの膝小僧が宝玉のように目に眩しい。あぁなんて柔らかそうな二の腕と内モモだろう。


 頬ずりしたい! 吸い付いてしゃぶりたい!


 高校生の癖に! 高校生の癖にぃいいいい!


 喧しいわ。


 ともあれ、不埒な視線に先に気づいたのは成だった。


 不意に悪寒を覚えると、ヴィーナスの誕生みたいなポーズで身体を隠し、疑うような視線を結愛に向ける。


「……えっと、渋谷さん?」

「な、なに!? 別に見てないけど!」

「まだ何も言ってないんだけど……」


 やっぱり絶対見てたよなぁ……と思いつつ、成は尋ねた。


「ていうか……。渋谷さんが貸してくれたズボン、全然サイズが合ってないんだけど……」


 貸してくれた、というのはかなり穏便な言い方だった。

 正確には、無理やり着るように強要された、だ。

 最初は結愛と同じく、学校指定の体操服に着替えるつもりだった。


 その途中で、突然結愛が「そう言えば良い物持ってる!」とか言い出して、とんでもなく小さな短パンを押し付けられた。履いてみたら実際小さくて、華奢な成でもお尻がパンパン、太ももなんか根元まで露出するくらい短い。ほとんど海パンみたいな代物だった。


 こんなの履いて表に出るのはイヤだったが、結愛の無言の圧に負けてここまで来てしまった。


 でも、冷静に考えたらやっぱりなにかおかしいと思う。

 結愛も内心そう思っているのだろう。

 指摘したら、「うっ」と呻いた。

 もしかすると、これは新手のイジメなのだろうか?


 成の身体を見て、結愛は複雑な表情を浮かべた。

 戸惑いと後悔、困惑と歓喜が入り混じったような表情だ。

 暫く言葉を探すと、結愛はなにかを誤魔化すように、わざとらしく咳ばらいをした。


「だからなに? 似合ってるんだから良いじゃない!」

「いや、似合ってるとかじゃなくて……。普通に恥ずかしいんだけど……」

「………………だから?」

「いや。だから、嫌なんだけど……。普通の体操服に着替えていい?」


 荷物は近くにある無料のコインロッカーに預けている。

 念の為、中には普通の体操服も入れてあった。


「ダメ!」


 間髪入れずに結愛が叫んだ。

 その直後、別人格が勝手に喋ったみたいな顔をして、慌てて口を塞ぐ。


「……なんで?」

「なんでって……なんでもいいでしょ! 小鳩の癖に口答えすんなし!」


 そんな風に言われたら、成も腹が立つ。

 モチモチのショタい頬っぺたが、怒りでプクッと膨れた。

 上目遣いでジトっと睨み、成は言う。


「渋谷さんのエッチ」

「ぬがぁ!?」


 結愛は頭をハンマーで殴られたみたいにふら付いた。

 動悸がするのか、胸を押さえてブンブンと頭を振る。


「は、はぁ!? なによエッチって! 意味わかんないんだけど!?」


 言葉とは裏腹に、結愛の目は左右に激しく泳いでいた。


「だって。そうとしか考えられないでしょ? 無理やりこんな短いズボン履かせて。さっきから僕の事変な目でジロジロ見てるし……」

「は、はぁ!? 見てないし!? 見るわけないでしょ! なんであたしがあんたなんか! 自意識過剰にも程があるし!」


 何故だか知らないが、結愛は慌てていた。

 チャンスだと成は思った。

 陰キャにだって意地はある。

 陽キャのギャルにやられっぱなしじゃいられない。


「じゃあ、なんでこんなズボン履かせたのさ」

「そ、それは、だから、その……」


 ダラダラと、結愛の額を汗が伝った。

 

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