第43話
「……というわけで、幼馴染に婚姻届けをネタに、彼氏をつくらないなら結婚すると言われておりまして……」
晴が幼馴染で一緒に住んでいる事は伏せて、ざっくりと事情を話すと要は苦い顔をした。
「もしかして、大冨さんは男運が無いの?」
「そうとも言います」
「一途な人に愛されて、逆に運がいいともいうか」
「愛で脅します?」
「どうしても欲しいものがある時、手段を選ばないことだってある」
それに杏子は首をかしげた。
「ほしい案件がある時、なにがあっても営業たちが折れなくて裏の裏まで調べたり、あらゆる対抗手段と資料を用意するのを見たことってない?」
説明されて杏子は納得できた。
受注を取りたい時、あの物腰の柔らかい相馬次長でさえ、ここまで調べるかというほど相手先を調べ尽くす。
手伝いをする立場の杏子だからこそ、その熱量は伝わってくるし、わかっているつもりだ。
「彼を選ぶか新しい彼氏をつくるか……という選択肢を君にあげる余裕があるとは思えない。どうしても欲しいけど、傷つけたくないというのが大きいんじゃないかな。でも実際には誰にも君を渡す気はないはずだよ」
「そう、ですか」
「このタイミングで再会しなかったとしても、大冨さんの前に現れる予定だったと思う。婚姻届は最後の切り札で、君のことを探っていたんじゃないかな?」
晴が帰ってきたと、母から電話をもらった時のことを思い出す。
「……まさか、母さんたちが私の情報を相手に流していた、とか?」
「そうかもね。聞いてみるといいかも」
杏子と晴の母親は、中学生から同級生で仲が良く、すべての話題が筒抜けだ。
それに、今の会社は実母から勧められて入った経緯がある。
「……家族ぐるみで彼の味方かつ、グル……ありうる」
「その幼馴染は用意周到だ。大冨さんを逃がす気はないはず」
一対一で戦っていたと思っていたのだが、もしかすると一対複数かもしれない。それは、手ごわすぎる。
「大冨さん。俺と一緒に幼馴染くんの真相を探ってみない? ついでに俺も困っていることがあって協力してほしいんだけど」
要を見上げると、さわやかだけどちょっとだけいたずら心のある笑顔が返ってきた。
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