第38話
忙しそうな晴を無視し、杏子は先にお風呂に入ると早々と寝室で寝る準備を整える。翌日の要とのディナーを考えると、今日はゆっくりと寝ておきたい。
(それに……)
晴が先ほどまで電話していた相手がかおりだということを知って、杏子の胸中は穏やかではない。
料理を作っている時に抱きついてきた晴からは、知らない女性ものの香水のにおいがした。
(一緒に仕事していて匂いが移るとか、ボディータッチがすごいのね)
なんとなく腹が立っていた。
いつもなら晴が来るまで間接照明をつけておくのに、それを消して真っ暗にしてベッドにもぐりこむ。リビングの明かりが消えたのは杏子がうとうとし始めた時で、晴がベッドに入ってきた振動で起きた。
「なあ、あんこ……」
晴は布団に入って来るなり、杏子に後ろから抱きつく。寝ぼけていたため受け身が取れず、思い切り晴に抱きしめられた。
「……嫉妬してんの?」
耳元でささやかれて、さらに舌が耳の後ろから首筋を這っていく。違うという言葉が喉に絡まって出せないでいると、晴が微笑む気配がする。
「かわいいな、あんこ。すっごいかわいい」
晴は杏子の耳に齧りついてくる。嫌がっても身体を強く抱きしめられ、脚もがっちり挟まれてしまった。晴の手がパジャマのショートパンツの下から杏子の素肌に触れる。
「やだ、晴っ……」
「でも、あんこだって明日男と一緒にいるんだろ?」
妬けるなあという言葉とともに、晴の指が杏子の太ももを責めるように撫でた。晴の唇が首筋をなぞっていく刺激に震えてしまう。
「その男といても、俺のこと忘れられないようにしたい」
太ももの付け根に押し込まれた親指に、杏子の身体が過剰に反応する。
「そんなかわいく怯えるなよ。どれだけ俺が……」
なにか言いかけたのを止めて、晴の手が去って行く。ドキドキが収まらない杏子をおいて、晴は反対を向いてしまった。
恐る恐る晴の方を向くが、見えるのは彼の背中と後頭部だけだ。
「……晴のバカ」
文句が聞こえていたのか、晴がむっとした顔で振り返ると杏子の手を掴んて自身の胸にいざなった。
「バカなのはあんこだ」
触れた晴のシャツの下から、杏子と同じように脈が速くなる彼の心臓の鼓動を感じる。
「バカすぎ」
彼の切ない顔を見ているうちに、杏子は無意識に晴を抱きしめていた。
晴の早くなっている鼓動に耳を傾けながら、晴と触れ合う心地良さに眠気がやってくる。
「でも、勝負は勝負だから」
「望むところだよ、バカあんこ」
しばらく抱き合ったまま、離れられないでいた。
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