第31話
「美奈子、経理課の杉浦さんって知ってる?」
美奈子はくるりと振り返って目を輝かせた。
「経理課の最後の要と呼ばれる、独身王子ね!」
「……なに、そのあだ名?」
「ルックスよし、スタイルと性格よし、おまけに彼女無しで狙っている子多いわよ。浮いた話もなくて、趣味が多いらしい。杏子、もしかして王子と恋愛する気?」
「違う違う。困ってる時に話しかけてもらって、仲良くなったの」
泣きついて以来、お互いを見かけると話をするようになった。なにかあったら相談に乗るからと、連絡先まで教えてくれた要はいい人だ。
「やるじゃない! そのままデートして狙っちゃいなさいよ!」
「なんで?」
「なんでって、年下わんこくんじゃ、杏子のお眼鏡にかなってないんでしょ?」
「そういうわけじゃないけど」
「あと二ヶ月以内に彼氏つくらないと、年下わんこくんに婚姻届出されちゃうんでしょ? 本当に嫌ならフェイクでもいいから彼氏つくりなさいよ」
美奈子の意見はもっともで、晴が嫌なら本気で彼氏を探せばいい。
「色気も包容力もあって爽やかイケメン。おまけに経理課の部長候補と噂だし、杉浦課長ならわんこくんの言う〈俺よりいい男〉に入るんじゃない?」
「たしかに!」
「本気なら今日の帰りは私と買い物よ。いい、まず見た目を変えなくちゃ。杏子は色気ないんじゃなくて、気を遣わなすぎ」
「うっ……」
美奈子の手が伸びてきて、杏子の眼鏡を外した。実はそれは、仕事ができるように見せかけるためのフェイクで度は入っていない。
「可愛いんだから、磨けばすぐよ。美容院予約しておくから、そのぼさぼさ頭もなんとかしてもらうからね!」
言うなり美奈子はすぐさま携帯電話を取り出して、おすすめの美容室の予約をしている。
「……まあいっか」
杏子は今日の残りの仕事に取りかかった。
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