第27話

「若い時は後先考えず進めることってありますけど、さすがに遊びで恋愛もしないし、リスキーなことだってしたくない」


「めちゃくちゃわかります」


「三十越えて遊びだと相手を傷つけることになる。俺も恋愛は面倒だな」


 要は思いをオープンにするタイプのようだ。第三者の目線で年頃の恋愛事情を話す姿は、論理的で共感しやすかった。


「大冨さんも、遊びの恋愛はこりごり派?」


「そうですね」


「でも、真剣交際は面倒くさいとか? 過去に何かトラウマでも? あ、別に探ろうってわけじゃないし、言いたくなければスルーしてね」


 悪意がないように思えて、杏子は要になら自分の話をしてみたくなった。


「以前お付き合いしていた人に問題があって。二股されていたんです」


 元カレの話をすると「うわ、それはない」と要は大いに顔をしかめる。


「きちんとするまではプラトニックな関係でいようと言われてて、律儀な人だなって思っていたんです。でも、ただ単に彼はリスク回避していただけで」


 杏子が諦めたように笑うと、要にぽんぽんと肩を優しく叩かれる。


「悲しいのは我慢しないほうがいい。その笑顔はこっちまでつらくなる」


 胸の奥底から込み上げてくるものがあった。元カレに文句の一つも言えず、苦しかったのにそれさえ吐き出せないでいた。


 要に連れられて、デッキの隅のベンチに腰を下ろす。その時にはすでに杏子の目には涙があふれていて、横に座った要は背中をさすってくれた。


「誰もいないからどうぞ。俺は落ち着くまで隣にいるよ」


「ごめんなさい……」


「気にしないで」


 背中をさすってくれる手から伝わる優しさと、やっと流せた涙が止まらなくてしばらくそのままでいた。

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