第4章 彼氏が欲しい

第23話

 勢いよく勝負に乗ったはずなのに、精神的に追い詰められたのは自分だった。


 杏子が失恋からそこそこ立ち直れていない一方で、晴はモテモテだ。


「はあああああああああ――」


「杏子、なにまたすごい溜息吐いてるの?」


 ついに先週末、晴が自宅に越してきたことを打ち明ける。


「同棲なんてラッキーじゃない」


「こっちは困っているの」


「家賃折半でしょ? おまけに朝食は年下わんこくんが作ってくれるわけで」


「だからってなんで一緒に寝なくちゃなの。どうしてベッド破棄してきちゃうの晴のバカ」


「確信犯ね。そんなに嫌なら彼氏つくったらいいじゃない」


 コーヒーをちびちび飲みながら杏子は肩を落とした。


「嫌ってほどじゃないから困っているんだよね。それに、今は恋愛とか考えず仕事に没頭したい」


「杏子の元カレの『主任』って男が現れたら、私がぼっこぼこにするのに」


 事情を知る美奈子は心強い。


「もういいの、忘れるから」


「わんこくんに忘れさせてもらえば? 一緒に寝ても手を出されないほど溺愛されているみたいだし」


「冗談じゃない。このままじゃ晴と結婚する羽目になる」


 それはそれでありでしょ、と美奈子は笑った。


「初体験の責任取るからって、婚姻届けを書いてまで愛してくれる人なんてそういないわよ。その時は学生なんだし、相当杏子が好きとしか思えない」


 そうなんだけど、と杏子は口ごもる。


「……重いんだよね、晴の愛情」


「杏子が怯えているのはわんこくんの愛情じゃなくて、自分自身の自信のなさでしょ」


 スパッと本当のことを言われて、杏子は二の句が続かない。


 美奈子の言うとおり、杏子が一番怖いのは、晴を受け入れたら最後自分がダメになりそうだからだ。


「いいじゃない、甘えさせてくれるって言うなら、一生甘えさせてもらえば」


「そんなことしていいのかな」


 溺れたら最後、晴は絶対杏子から手を離さないだろう。


「考えすぎよ、楽しくやりましょ」


 美奈子に励まされて、杏子は頷いた。

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