第17話

「以前勤めていた会社の、取引先の主任と付き合っていたの」


「へえ。で?」


 聞いておいてあまりにも淡白な反応だ。


「それだけよ」


「一緒に住んでたの?」


「ううん。主任には、彼女がいたから」


 晴は思わず目を見開いて杏子を見つめた。


「浮気相手してたのかよ?」


「うん……まあそんなところかな」


 晴は納得しなかったようで、チクチクと視線で杏子を責めてくる。


「晴、誰にも言わない?」


「さあな。言うか言わないか決めるのは俺だ」


「じゃあ話さない」


 太ももの付け根に晴の親指が食い込んできて、杏子は悲鳴を上げた。体勢を崩したのをいいことに、晴はショートパンツの中に手を入れようとしてくる。


「子どもができたからって勝手に別れて消えたの。私と身体の関係は一回もなかった!」


「つまり、本命にばれたら困るから、ギリギリクリアな関係でキープされてたってわけね」


「……たぶん、そういうこと……」


「お前、バカだな」


「わかってるけど、好きだったの」


 晴は思いっきり笑顔になった。


「そんなバカな男に騙されるあんこに、ご主人様は誰かということを躾し直さなくちゃだな」


「なにそれ」


「んー。あんこのこと好きでいていいのは、俺だけってこと」


 気が緩んだ隙に、ちゅ、と頬に可愛いキスをされる。


「……あんこは俺だけにいっぱいになってればいい。他の男の事なんか考えるなよ」


 まぁ、考えさせてやらないけど、と言いながら、今度は額にキスをされる。杏子はぽかんとしたまま、しばらく動けなくなってしまった。

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