第13話

 部屋に入るなり、杏子の許可なく晴はソファへ横たわった。


「あー、つらかった。やっとゆっくりできる。みんな俺に興味津々すぎるよな。年頃の女って、本気すぎて考えがまるわかり」


「そこで寝ないでよね。風邪引かれたら困る」


「じゃああっためて」


 急に引っ張られた反動で、晴の胸に杏子は飛び込んでしまった。ぎゅっと抱きしめられたかと思うと、手がするするとシャツの下から滑り込んでくる。


「ちょっと晴、なにしてるの!」


「んー、ボディチェック」


 つつつと背中を指が這って、杏子は思わず身体を固くする。指が下着のホックの下に入り込んだ。


「邪魔だし、これ外しちゃう?」


「あんた酔っぱらってるでしょ。最低」


「あれくらいで酔うかよ。しかも時差ボケで、今からのほうがむしろ調子いいんだけど」


 プチ、と下着のホックが外された。慌てて逃げようとしたところを「はい、逃げなーい」とがっちり抱きつかれてしまう。


「ちょっと晴いい加減に――」


「じゃあ逃げろよ。だけど、俺に逆らうとどうなるかわかってるだろ?」


 覗き込まれた目が笑っていない。眼鏡をはずされ、唇が重なった。


「やだ、晴!」


「俺は嫌じゃない。キスするのもやめるのも、決めるのは俺なの」


 からめとられるような口づけに、杏子の意識が遠のく。晴の手がシャツの裾に触れたところで、腕を突っ張らせて遠のけた。


「晴のバカ。いつまでも昔の私じゃないんだからね!」


 杏子は飛び起きるとすぐに晴から離れた。


「お風呂入るから、絶対に覗かないで!」


「それ、ふり?」


 ソファに横たわった晴は、ネクタイを緩めながら意地悪な顔をしている。


「ふりなわけないでしょ! 大人しくしてないと追いだすからね!」


 杏子はバスルームへ直行する。


 その後ろ姿を見ていた晴は、ソファに埋もれながらくすくすと笑った。


「なにが昔の私じゃないだよ、そのまんまじゃんか。大人ぶるくせに、ちっとも俺に勝てないの。いじめたくなるんだよな、可愛すぎて」


 早く俺に振り向いてくれないかな、と晴は独り言ちてから目をつぶった。


 そんなことを言われているとは知らない杏子は、熱すぎるほど温度を上げたシャワーを頭からたっぷり浴びて、胸のドキドキを抑えていた。

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