第12話

 急に元気を取り戻したように身体を起こした晴を、杏子は渾身の力で押しのけようとした。残念なことに、びくともしなかったが。


「二次会を断るための演技だったのね!?」


「そーゆーこと。ほら、とっとと帰るぞ。あんこの家に」


 嫌がる杏子にはお構いなしに、晴は手を引っ張ってタクシーを拾う。


「お断りします!」


「じゃあホテルにするか。運転手さんそこの先の綺麗なラブホ――」


「バカ! 運転手さん、○○町までお願いします」


 着いたら起こせという一言と共に、晴は杏子の肩に頭を乗せて目をつぶる。


(晴のペースに巻き込まれてる! どうにかしなくちゃ!)


 しかし彼の住まいがわからず、杏子の家に運ぶしかない。酔っているのは本当のようで、晴の身体は非常に熱かった。


「着いたよ、晴。起きて!」


「やっぱあんこの家って会社から近いよな」


 マンションの入り口で目をパチっと開けたのを見て、寝たふりだったのかと愕然とした。悪魔の化身なのではないかと本気で疑わざるを得ない。


「知ってたの?」


「当り前だろ。ちなみに泊まる予定だったから、着替えもすでにカバンに用意済み。っていっても下着だけだけど……見る?」


「バカバカ、ここで見せなくていいから!」


「じゃあ部屋入れてくれるよな、あんこ」


 鞄の中から下着を出そうとするのを慌てて止めた。


「……今日だけだからね」


「俺に指図するんだ、あんこの分際で」


 急に真面目な顔になって手首を掴まれたので、杏子は慌てて顔をそむけた。満足したのか、晴は「行くぞ」と先にエレベーターに乗り込んでしまう。


(ああどうしよう、晴のペースに呑まれっぱなし……)


 このまま逃げようかと思ったが、それをしたらおそらく仕返しをさせるに違いない。杏子はおとなしくエレベーターに乗った。

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