第6話
*
「とりあえずメシウマはマスト。お酒は種類少なくていいからワインがあるところ……っていうと、創作料理とかか。俺は和食がいいけど、ほかの料理も食えるほうがみんな楽しめるよな」
唇が離れていったと、晴が懇親会のリクエストを言い始めた。
「わかった。そういうお店探すからどいて」
反抗した杏子の額に、今度は軽めのデコピンが飛んでくる。杏子の眼鏡がずれた。
「誰に向かってもの言ってんだよ。どくかどかないか決めるのは俺だ」
「うっ……」
晴に強く言われると杏子は昔から言葉に詰まる。悔しいかな、営業職に就いて男性に萎縮するのを克服したはずなのに、元凶である晴相手だとハードルが高い。
両手を拘束されたまま、再度、晴の顔が近づいてくる。とっさに目をつぶり体中に力を入れたところで、耳にふっと息を吹きかけられた。
「ひゃあ!」
「ははは、相変わらず色気ないな」
「ほんとにやめてって」
「だから、誰に向かって指図してんだよ」
ガブリと耳に噛みつかれて、さすがに痛くて抵抗した。噛みついたあとにぺろりと舐められて、背筋がぞわりとする。
動けなくなっていると、やっと満足したらしい晴は杏子を抱き起して隣に座った。
「ほら、さっさと店検索して。休み時間がなくなる」
慌てて携帯電話を取り出すと、隣からパッと取られてしまう。
「晴、なにして……」
「ご主人様の連絡先を知らないと、あんこが困るだろ?」
「困んない!」
「うるさいな」
顎を摘ままれて杏子は押し黙った。そのままコツンとおでこがぶつかる。
「……俺のいうこと聞かないと、婚姻届け勝手に出すからな」
「なっ!」
悪魔のような笑みを見せられて、杏子は開いた口が塞がらなかった。
「わかったなら言うこと聞いとけ。いいな、あんこ?」
「うっ……」
「返事は?」
杏子は思わず「うん」と言ってしまっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます