できるだけ残酷に、花を捨てる

雨吐流

できるだけ残酷に

 花を綺麗だと思う。定番の薔薇に向日葵、百合や紫陽花。いつか牡丹の咲き誇る庭を歩けたら、どんなにか美しいのだろうと夢を見る。

 私のプランターは空っぽだ。気温も性格も、花を育てるのに向いていないから。咲いたとして、日の光を浴びて輝く時間にどうせ私は家にいない。100円ショップで買った花の種は、今日も冷蔵庫で眠っている。

 特に好きなのは、トルコキキョウとスターチス。

 花びらが幾重にも重なったトルコキキョウを初めて見たとき、憧れの牡丹みたいで目を奪われた。開きかけの花は中心が窪んであんぱんみたい。紫がかった白は特にお気に入りで、グラデーションを眺めていると惚れ惚れしてしまう。

 スターチスは嘘みたいに可愛い花。色付いたがくの中から小さな白い花がぽつぽつと顔を出す。萼が紫のものは、まるで星が輝く夜空のように見えるのだ。これで名前の由来が星の『スター』ではないというのだから、調べたときは本当に嘘ではないかと疑った。


 花を育てていない私の部屋には、花瓶も置いていない。最近増えた小さなサボテンは、お酒用のグラスでちんまりと根を張っている。今の100円ショップの品揃えには驚いてしまう。

 そんな私が花を目にするのは、道端、通りすがりの花屋さん。そして、花束。

 年度末のお別れや年度初めのお祝いなど、花束は節目に行き交いする。今の場所から離れていく人に、両手でようやく囲い込めるほどの大きな花束が贈られたのを見たことがある。私の好きな花は、そこで初めて目にしたものも多い。

 そして花束を受け取る順番は、私にも回ってくる。

 花を買わない私が滅多に感じることのない音、匂い、手触り。がさがさとした包装紙や可愛らしいリボンの奥の、硬い感触。少し冷たくて、握ると湿っている。たくさんの花の茎がひとつになっている場所。血の滴る首の断面。

 背の高いコップやシロップ漬け用の瓶に挿した花たちは、しばらくの間私の部屋の彩りとなる。咲きかけの花が笑い、蕾は少しずつ開いていく。

 惰性のように。


 私は悪人でいたくない。

 首を切られて、嬉々として飾られて、消費された後に「ごめんね」と眉を下げながらごみ箱の蓋を閉じられたら、怒りはどこへ渡せばいいのだろう。

 だから私は悪人になる。

 健気な中心が欠落して黄ばんだトルコキキョウ。

 星の輝きが消えて茎が溶けたスターチス。

 火刑を見てしまったように黒ずんだ薔薇。

 全部、花びらを掴んで、毟り取る。音をたてて、引き千切る。茎を折って、折って、畳んで、新聞紙へ。新聞紙を丸めるときも、灰色の塊を入れたごみ箱の蓋を閉めるときも。私の部屋を彩ったものたちの最期を、冷たい目で見届けるのだ。

 どうか私を恨んでと。

 あなたたちは美しかったと。


 少しだけ残したスターチスは、逆さまにして干す。他の花よりも綺麗に残りやすいから。

 それでも枯れた宇宙に星は見当たらない。

 いつかその虚空が私を呑もうと見つめているのではないかと思っている。

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