第11話 イズの考察
「とりあえず明日にはここを離れるよ。これ以上迷惑はかけない。それにこんなジメジメした物置小屋にいるのも苦痛になってきたしな。」
ノアは確かに、凄い奴だし頼れる奴だが人知を超えたこの事態に巻き込むべきではない。これは僕の問題だからな。
ノアの小屋のなかでかくまってもらっていた時、イズに改めて天使と悪魔について、そして僕がこれからどうすればよいのか聞いていた。
イズが言うには天使達は本来人間を嫌っているらしい。だから人間である僕の前に現れたことは少し不可解なことらしい。
「しかもあの天使アルケミアとかいうやつ序列七位って言ってたな。」
「それがどうかしたのか?」
イズは首を傾げて何かを考え込んでいる様子だった。
「いや、天使はやつが言っていた通り十六の天使で構成されているって言われているんだ、だけど十六体も本当に存在しているのかわかっていないんだ。」
「どういうことだ? だから何だって言うんだ? 第七位ってこととなにか関係あるのか?」
イズは重々しく口を開いた。
「今まで正体を明かした天使は第十四天使と十五天使だけだったんだ。古の大戦で悪魔たちが戦っていた天使もその天使達だったんだよ。」
「彼らでさえも悪魔の中でも英雄と呼ばれていた精鋭たちを押さえつけていたらしい。」
悪魔の英雄ってのがどんなものなのかは知らないが、彼女の口ぶりからして相当の手練れなのだろう。
「七位が世に出てきたんだ。今まで何千年も正体を表さなかったやつがここに来て出てきたんだ。」
結論から言うと、僕は天使達に目をつけられたのかもしれないとの事だ。つまり、イズと九条院家のことは天使達からしたらただの言い訳だったかもしれないということだ。
「お前さん、もしかしたらとんでもないことに巻き込まれているのかもしれないぞ。」
僕の正体を探るように見つめてきた。
「やめてくれよ」
「いや。それ以上にお前さんに何か特別な因果があるのかもしれないな」
その後イズは僕に僕というやつが何者なのか何回もしつこく聞いてきた。自分のというかこの少女の体で予言をしたとき僕を引き当てたことも何かの理由があったのではないか疑問になっていた。
とりあえず、その場でイズには適当なことを言ってごまかした。まさか天使がきっかけで僕について疑問を持つとは思わなかった。面倒なことになりそうだ。
そうして昨日の詰められたことについて今後どうやってイズをごまかすか考えていたその時だった。
地下都市全体に轟音が鳴り響いた。それと同時に地上にミサイルが落ちた時の警告アラートが続いて鳴り響いた。
物置小屋から急いで出ると地下都市の住民がパニックを起こしながら都市の中心にある避難シェルターに向かって走っていた。
「下山さん、これヤバいですか?」
柄にもなくノアも動揺を隠せないでいた。このアラームは二十年前から設置されているが今まで警告音が鳴ったことはなかったので驚くのも仕方がない。
敵国のミサイルが降ってきた。皆はそう思っているのだろう。けれど、僕にはわかる。これはミサイル攻撃なんて単純なものではない。ミサイルで敵国を狙う場合、今の技術をもってすれば攻撃されたことも気づかずに国全体が蒸発するだろう。
もちろんそのために全ての国がほかの国々のミサイルの所在や種類について完全に把握しており、ミサイルを打ち上げると同時、いや打ち上げる前に知ることができるのだ。
だから簡単に撃ち落とすことができるの。ミサイルで敵国を直接攻撃することは不可能なのだ。
今となってはミサイルは単なる威嚇装置に過ぎない。つまり、これはミサイルではない。早く地上に登って状況を確認する必要がある。
「ノア、君はシェルターにいくな。あそこに行くぐらいならここの秘密基地の方が安全だ。」
ノアはきょとんとしていた。確かに、設備的にはシェルターのほうが安全だ。しかし、ここの秘密基地は木々に囲まれて町からも離れており、入り組んでいるから絶対に所在を知られない。軍事侵攻が考えられる以上ここにいるほうが良い。
「下山さんがそういうならそうする。気を付けてな。」
最後にノアはしゃがみ込んでイズに抱きつき別れを言って基地に戻った。
「なあ、お前さんよ。精神って肉体に引っ張られるのか?」
イズはノアの後ろ姿を見ながら僕に聞く。
「なんだ? もしかしてあいつのこと好きにでもなったのか?」
少女姿の彼女は少し寂しそうにしていた。
「そうなのかもな。ただあいつとここで別れるのが少しモヤモヤする。」
精神や魂というものは今の技術でも全然解明できていないが、精神が肉体に引っ張られているこいつを見ると少し思うことがある。
「とりあえず、地上に上るぞ。ついてこい」
僕はイズを連れてノアの小屋のすぐそばの配管を通り地上に出た。
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