第10話 ノア



数日後、、、、、、


 僕は無事4桁万円の指名手配犯になっていた。それはわかっていたからかまわない。タチが悪いのは生け取りよりも殺したほうが賞金の上乗せがされている事だ。もはや賞金首だ。九条院の個人的感情がよくわかる。


「起きたのかお前」


 少女、つまりイズは乱暴な口調で目を覚ましたばかりの僕に声をかける。


「全く、闇魔法が使えなくなってからというもの不便でしょうがない。あの天使調子に乗りやがって」


 イズは悪魔としてのアイデンティティ、闇魔法が全く使えなくなっていた。闇魔法の使えない悪魔は他の単純な魔法しか使えないらしい。


 闇魔法が使えなくなったことが関係しているのか、キツネのようにつりあがっていた鋭い目から毒気が抜けて見た目は完全に小さな女の子になっていた。


「それじゃあ悪魔じゃなくてただの魔法使いだな。」


少しからかってやった。心なしか声までトゲが抜けたように感じる。


「文句あるのか? 俺がお前を守ってやっているんだ。いちいちそのことを掘り返すな。」


 そもそも、イズがこうして僕のそばにいるのは僕の身を九条院から守るためである。


 僕らは天使が帰った後、九条院家の追手から逃れるために僕らがいた首都・神楽都(かぐらど)からここ地下都市・幽都(ゆうと)に向かった。幽都までの道のりは地下水路を通った違法ルートを使った。


 本来ならばこの地下都市に来るには首都の中央にある役所を経由したルートを使わなくてはならない。


 もちろんそんなところ今の僕には行けない。だからこそこの地下都市に身を隠すという選択は間違っていないと思う。


今はそこの武器商人のノアにかくまってもらっている。


 ノアは僕が地下都市の治安維持部隊に配属されていた時に摘発した闇商人でもある。それこそ僕とほとんど歳も変わらない。こいつ自身本当は前線に行きたがっていたが、女であるという理由だけで行かせてもらえなかったらしい。


 正確には誰ひとり女性が前線に行っていないわけではない。一つの部隊の隊長クラスの階級がないと行かせてもらえないということ謎の風習が軍にはあった。


 結局、階級が上がる前に上層部と衝突があり自ら軍を抜けたらしい。彼女が軍を抜ける前に僕と出会っていればもしかしたら結果変わっていたかもしれない。


僕が前線に出されても死なないのはこいつのおかげでもある。武器商人でありながら天才発明家でもあるのだ。僕の戦闘機は特注品であった。


もともと自分専用に作り上げたものだった。前線に行きたがっていた奴がつくったものを使っている僕が戦場で死ぬことがなかったのは当然のことだった。


「まあ、あれは君の生体認証をしないと動かないから大丈夫だよ。それに解体されても軍の科学者連中じゃあの構造は理解できないよ。」


「また天才自慢か? お前さんよ、こいつホントに気持ち悪いんだがどうにかしてくれない?」


 イズの正体を知らないノアは彼女をぬいぐるみのように猫可愛がりしている。この少し嫌がられている感じが余計に好きらしい。とはいえイズも少し照れている。凶暴な性格がノアと数日いることで可愛げのあるツンツン野郎に少し変わったのは僕にとって好ましいことだ。


「それで君たちこの後どうするんだ? とても誘拐犯とその被害者とは見えないけど、まあなんか訳ありなんだろ?」


 確かに、死ぬまでこいつにかくまってもらうのも癪だ。それに僕はこれから起こる人魔戦争に備えておく必要がある。


「九条院家のやつらに追っかけられるのももうそろそろ終わる。すぐにそれどころじゃなくなるさ。」


 イズは抱きついてきていたノアを振り払って僕の後ろに隠れながら同意した。


「よくわからないけど、早く出て行ってくれよ? 明後日には地下都市にまで捜索網が広がるらしいからな。」


「なんでこいつもそんなこと知っているんだ? 警察の捜査情報って九条院家が絡んでいるし国家最高機密事項じゃないのか?」


それは戦闘機を融通してもらった対価として僕の権限でみられる限度の情報をこいつに垂れ流しにしているから。なんて、死んでも言えないな。


「あー。なんていうかノアって凄腕のハッカーでもあるんだよね」


 適当にごまかしたのだが、イズは意外とすんなり受け入れた。こういう単純なところ嫌いじゃない。







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