第9話 降臨
イズという存在は彼女の中にいた悪魔であった。しかし、彼女の中にいた悪魔も本人の意思で取り付いていたわけではないらしい。それが今回の一件をややこしくしている。
ともかく今話している存在は元の彼女でも悪魔でもない。だとしたらいったい誰なのか? そんな思考をしていると僕の考えていることがわかるのか彼女は自分の正体を話し出した。
「私は、女神さまにお仕えしている十六天使の一翼、浄魂のアルケミアです。序列にして第七位。女神さまのお言葉によりこの子の体を保護するよう頼まれたのです。」
神秘的な光景を目にしていたため大体の検討はついていた。がまさか天使なんてものが実際に存在していたとは思ってもみなかった。
天使という存在を認めることは超能力を認めることとはわけが違う。超能力は読んで字のごとく人間の能力の限界を超えた者である。
実際、ファミレスに行った時、イズは超能力を使っているところを僕に見せてくれなかった。具体的にはわからないがおそらく超能力はそこまで自由のきくものではないのだろう。結局のところ人間の行為である以上どこかで帳尻があっているのかもしれない。
それに対して天使はどうだろう。今した超能力の話のように適当な理屈を作れる気がしない。それほどのものが僕の目の前にいる。
呆然とする僕に天使様はにこりと微笑んだ。
そこからアルケミアは九条院家、悪魔、そして、謎のこの少女の家系について詳しく教えてくれた。
悪魔と天使は対抗関係にあり、古来より争いが続いていた。しかし、数千年前に人間が誕生し文明を築いていくうちに互いに力を失っていき天使は天空。悪魔は魔界へと追いやられ人間への危害を加えることを禁止し、自分たちも相互不干渉の約束をしたそうだ。
しかし、その均衡を九条院家が崩したらしい。九条院家はこの少女の一族、竹内家に脈々と受け継がれている特殊能力に目を付けた。竹内家の者たちはその特殊能力の反面短命であり、それの対処として悪魔の生命力を使ったらしい。どうやら僕の適当な推測はあっていたようだ。
「そのすると、あなたはさっき悪魔を浄化させていましたが、それは大丈夫なんですか?」
「確かに、彼ら悪魔との契約違反になりますね。けれど、あなたもさっきまで話していて分かったと思いますが、彼らは悪魔と名乗ってはいますが理性のない化け物ではありません。むしろ人間よりも幾分知能が高く分別のつく者たちです。」
悪魔と言えば契約にうるさい奴らという印象があるが、今回の場合、悪魔たちは九条院家の悪行に腹を立てているようで女神が悪魔王(デーモンロード)にイズの浄化をすると伝えた際、悪魔王もやむを得ず承諾したとのことらしい。
「なら安心ですね」と僕が言うと、そんなことはないです。と言い返された。
悪魔は九条院家を許す気はないらしくこれを機に人魔戦争始まると言った。
女神や天使の陣営が味方してくれるのかと思いきや昨今続いている国際戦争に呆れた女神が不介入を決定したらしい。
「仕方がないですな。僕たち人間は何年もの間戦争を続けているんですから。それに僕も軍人ですし、何かお願いをできる立場ではないですね。」
ため息をつく僕に天使は「あなたが生まれたころから続いているのですし、あなたの生い立ちを考えれば生きていくのに軍人になるという選択をする以外なかったでしょう。」と慰めの言葉をくれた。
生い立ち? 天使というのは人の過去も知っているのか。さすがだ。だけど僕の生い立ちなんてつまらないもの知っている必要ないだろ。
「とりあえず、あなたの現状を助けるべきでしたね。そうですね。私が先ほど浄化した悪魔に助力を願いましょう」
悪魔は死んでも魂は残るための数百年立てば復活するらしい。しかし、天使の特権で今この瞬間に復活させることができるらしい。
「そんなことしてもいいんですか? ほら、女神様に許可とか必要なんじゃないのか?」
「確かに、悪魔をこの世界に再び呼び起こすなんて女神様が快く承諾はしないでしょうね。しかし、だからといって女神様の命令で悪魔を復活させたなんてことになったら事情があってもほかの者たちによくは思われないでしょう。」
「そもそもこういう時のために私たち補佐である天使がいるのです。このくらいの決断ができない小心者や保身に走るものはそもそも天使ではありませんよ。」
天使はそう言いながら少女の中から霊体化して出てきた。そして地面に倒れた少女に魔法陣をつくり儀式を開始した。
天使の霊体、いや実体は光り輝いていており眩し過ぎてはっきりとみることができなかった。出来る事なら見てみたかったがどうやら通常人間の目には見ることができないらしい。
儀式が終わり、天使アルケミアはこれぐらいしか力になれないと申し訳なさそうにし、僕に少女を任せて天空に帰っていった。
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