第8話 発端②




「確かに、死ななかったな」


イズに対して、あきれた口調で毒づいた。そもそも、三年後まで死なないようなことを言われても今さっき起きた出来事を予言できないようじゃ使い物にならん。


「なんだお前さん。怒っているのか?」


 イズを担ぎながら全力で逃走をした僕に向かって悪びれもせずそう言った。もちろん、生意気なので軽くはたかせてもらった。


「それでお前さんよ、何処に逃げるつもりだ? 唯一の友達もどうやら死んでしまったようだしな」


 腹が立つことを言ってくれる。確かに、陽大は大事な仲間ではあったが、彼と同じくらい大事な仲間やそれ以上に大切だった仲間が僕の前から何人もいなくなっていることぐらいこいつならわかっているはずだ。


 それに人を巻き込んでおいてそんな冗談が言えるのかよ。陽大からしたら自分とは全く関係ないことで殺されてしまったのだからうかばれないだろうに。


「こんなことになるくらいなら、お前のことさっさと捨てておけばよかった。」


 このガキに聞こえるようにハッキリ伝えた。


 さっき自分の部屋から飛び出るとき陽大を殴打したのは軍のロッカーに入れておいた僕の猟銃であった。あれを警官の一人が持っていたということはそれを証拠に僕を殺人犯に仕立て上げようとしているのだろう。


それならこいつも殺してしまおうか。戦場でいくらでも人は殺してきた。戦地で殺すか街中で殺すかの違いしかない。心は保てる。


 それに人の死になんとも感じていないぶっ飛んだ倫理観を持っている奴ここで見殺しにしてもかまわないのではないのだろうか。


 そんな思考に頭の中が支配されていた時、後方からの発砲音とともに担いでいたイズが突然重くなった。九条院の部下の銃弾がイズに直撃したみたいだ。


 確実に死んだ。幾度も仲間の死を見てきた僕がそう思った。


そう感じたためその場に衝動的にイズを捨てた。


 人を巻き込んでおいて負い目を少しも感じない奴なら例え超能力を持っていたとしても見捨てるのに何のためらいもなかった。人間としての価値がない。


「あーあ。 いい相棒になれると思ってたんだけどなーー」


 イズの声がした。しかし、それは元々口調の荒かった彼女以上に威圧的なものだった。


 反射的に振り返る。後ろで倒れているイズは体がびくとも動いていないにもかかわらず大きな声で荒げていた。


肉体は確実に死んでいるように感じた。しかし、イズからの感情のこもった声がバンバンに伝わってくる。


しばらくしてその声も弱まっていった。おそるおそる彼女の方へ近づいた時、地面に横たわるイズの体全身を囲むように天上から青白い光がさしていた。


 青白い光線はイズの中に何かが入っていくようにも見えた。さらにはついさっきまで追っかけてきていた九条院家のやつらも何処かにいなくなっていた。さらにはのろのろ歩いて僕の邪魔をしていた通行人もいなくなっている。


 状況が吞み込めず困惑している僕に誰かが話しかけてきた。


どうやら声の主はイズであった。しかしそれは、さっきまでの激しい口調ではなかった。むしろ聖母様のような優しき声色だった。


「さきほどまでは申し訳ありませんでした。彼女の中にいた邪悪な者には退場させてもらいました。」


 今までのイズからは考えられない程落ち着いていて優しい口調であった。


「は? ならお前は何だっていうんだよ。」


「そうですね。そもそもこの少女の名前はイズではありません。イズというこの名前は邪の者の単なるコードです。本物の彼女はもう二年も前になくなっています。」






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