第7話 発端



 寮の自室に戻るとイズが僕のベッドの上でスナック菓子を食い散らかして寝ていた。しかも、昨日補充したばかりの僕のものをすべて食い尽くしていた。


 イラついたため、彼女の抱き枕を取り上げ無理やり起こし、お菓子も取り上げた。睡眠中にもかかわらず枕にがっちりとつかまっていた。


 「おい」


 「起きないと、晩飯食わせてあげないぞ?」


 その一言でベッドから飛び上がるように起きた。こんなにお菓子を食べておいて食欲で睡眠から目覚めるなんてなんてやつなんだ。


 これ以上ちょっかいをかけるのは大人げないと思ったので話題を変えるためにも今日あった出来事を話した。


「ふむ」


「やはり、あいつ俺様を失ってあせっているのか。 冷静で隙を一切見せないような男がお主のような若造に焦りをみせるとは。 なんて愉快なんだ。」


 確かに、その気持ちがわからなくもないがこいつがここまでの感情を九条院に対してまだ隠しているのは知らなかったので驚いた。


 追手がいるにも関わらずこいつはどうしてこんなに余裕をかましていられるのかが不思議だった。


「とりあえず、現状危機はないって感じなのか? でも、これからもずっと逃げ回る気なのか?」


 僕自身、不死身と称される男ではあるが軍人であることには変わりない。実際、次の戦闘で死ぬ可能性もある。いつまでもこいつをここに置いておくわけにはいかない。


 それはこいつもわかっているだろう。しかし、この余裕は一体何なんだ? もしかしてこいつお得意の予知でこの先の展開が分かっているのか?


 彼女をこれからどうするかと思考しているとイズは唐突に枕を投げてきた。それに反射して彼女のほうを見た。


「お主もしかして俺様のことを心配しているの? 一つだけ言わせてもらうと、ここが九条院家の連中にばれることはない」


「それは予知で分かっているのか?」


 やけに確定的な物言いに対して聞かざるを得なかった。


 それに対して違う違うと、簡単に否定した。


「言ったろ? 私の予知はそこまで都合よくない。だけどね? お主三年後までは生きていることは最初の予知で分かっている。」


 三年???? こいつちゃっかり僕の余命宣告していないか? 


 しかし、彼女は焦る僕の様子を見て慌ててそれは違うと否定した。最初の時の予知では三年後に僕のそばにいるということ読み取れていなかったらしい。


それに予知能力についてそこまで聞いた覚えがないんだが、、、、 


「とりあえず、俺様にこれといった目的は今のところない。お主も三年間は死なないことが分かっているのだ。とりあえずはこのままでいいだろうな」


 そんな悠長な会話をしているとき部屋の扉が突然開いた。そして、開くと同時に血まみれでボロボロになった陽大が床に勢いよく倒れた。


 死んでいる。一目見ただけでそれが分かった。軍人としての経験とかではなく、一般人でも見た瞬間にわかるだろう。倒れている彼の奥には九条院の姿があった。


「何でお前がここに!?」


僕が言葉を失っていると、彼女は大きく動揺して叫んだ。


 僕らを追い詰めているのにもかかわらず余裕を見せない九条院は五人ほどの工作員をイズの確保に突入させてきた。


 絶望で硬直してしまっているイズを脇に抱きかかえて反射的に二階のこの部屋から飛び降りた。これから先のことを考えるとここで逃げ出すのは危ないとも思った。


 しかし、九条院の背後には警官もいたためにあの場から逃げるしかなかった。あのままあそこの部屋にいたら幼児誘拐だか監禁だか適当な罪でつかまっていたかもしれなかった。


 警官まであいつの手先になっているのか、、、、


 九条院の手下が人をボコボコにしているのにもかかわらず彼を止めるのではなく僕を逮捕するために見て見ぬふりをしたのだろう。


 これからどうすりゃいいんだよ。まったく。




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