第4話 ファミレスにて
夕食の時間はとうに終わっていたため寮のそばにあるファミレスに彼女を連れて向かった。お腹が空いたということもあるがそれ以上にこいつと二人でいるところを寮の他の連中に見られたくない。
それよりもこいつ、おごられている身なのにもかかわらずハンバーグとチキン定食二つも頼んで食い散らかしている。
深窓の令嬢のような格好をしてフォークを両手で一本ずつ持ちすくいあげるように食べているのだ。
周りの客も当然行儀の悪い彼女を不快に感じるらしく、僕の顔を見てくる。どうやら僕が保護者にでも見えているらしい。
「もしもし、、、、聞いてます? お嬢さん。君のおかげで僕が冷たい目で見られているんだけど、もう少し落ち着いて食べてくれないかな? とったりしないからさ。」
「腹が減っていたのだから仕方がないと」右手に持ったフォークを僕のほうに向けにらむ。
陽大が風呂から帰ってくる前にイズを連れて寮のすぐそばのこのファミレスに向かった。彼女の話では陽大には気づかれていないようだったので、ややこしくなる前に抜け出した。
さっきも言ったが実際問題、知らない幼女が自分の部屋にいるという状況は泥棒のオッサンとかが入るよりも数段タチが悪い。
それこそこちら側の犯罪性を疑われかねない。
誘拐犯扱いされるのはまだ構耐えられるんだが、誘拐したのが小さな女の子だとなると、話が変わってくる。外聞を気にする男なのだ。
そもそもこいつメニュー表をパッと見て一瞬も悩まさずにメニューを決めて僕に渡してきた。子供はこういった時、なかなか決まらないものだとも思っていた。何なら大人ですらそうだろう。
いざ、注文のタイミングでイズはハンバーグ、チキンの定食に加えピザ、フライドポテトまでひょうひょうと頼んでいたようだ。そりゃ、予算を考えなきゃすぐに決まる。
「確かに奢るとはいったけど、もう少し遠慮とかないのか?」
呆れる僕に彼女は、「軍人なんていつ死ぬかわからないんだから使えるところで財産を使っておいた方がいいだろ?」と正論をかましてきた。
イズは僕にグチグチ言われるのが嫌になったらしく、話を変えるように突然この国の一人の要人の名前をあげた。「九条院 修」そう言った。財務大臣であり、空軍としては中将の一人であるエリートだ。
もちろんこの地位は家柄だ、家柄によるものだ。功績としては僕よりも低いはずの男である。それでも他の兵士達と比べても頭脳であれば確かに歴然の違いがある。
「僕も面識があるけど、お前のお気に入りか何かなのか? 正直、彼にはそこまでの面白味があるとは感じないけど」
こんなちっこい奴も知られているエリート様に対して少し苛立ちを見せてしまった。それに気がついたのか僕の顔を見てイズは笑った。
彼女は机の下から小さな紙切れを取り出し、僕に見せてきた。どうやら、彼女が彼個人に興味があった訳ではなかった。
持っていた紙切れはどうやら新聞の切れ端だった。そこにのっていたのは最年少で大臣に就任した九条院であった。
「それでこいつと国家転覆どんな関係があるんだよ。」
確かに、こいつは国民からすれば国の代表と言っても差し支えない程の地位、家柄がある。けれど、こいつ一人でこの国をどうにかできるほどの力があるとも思えない。
「何を興奮しているんだ? 俺はこいつ個人には何の興味もない。 問題なのはこいつの血統だ」
「血統? 血筋ってことか?」
「そう。九条院家。 あのくそ野郎どもだ」
ここに来て初めてイズの口調が荒れた。新聞の紙切れを机の上に置き、食べかけのハンバーグに再びフォークをぶっ刺した。
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