第3話 出会い②



「これからお前にはこの国を転覆してもらう。」


 何を言っているのか。そもそもこいつの存在自体が意味不明だ。


「この国をか? 誰に向かって言っているのかわかっているのか? 僕はこの国のために身をささげている軍人だぞ!」


 少し大人げないと感じたが、冗談でも自分の行いを茶化されるのは不愉快だ。実際、僕のような軍人がいなかったらすでにこの国はないだろう。


 少女は僕の反応に驚きはしなかった。激昂している僕を前に退屈そうに座り込んだ。


「わかっている。わかっている。お前がこの国のために尽くしていることは俺も理解している」


 まるで思春期の中学生を落ち着かせるかのように言いきかせた。


「ならどうして国家転覆なんて僕に命じたんだよ?」


「多分君もこの国の人間だろう? 何か不満でもあるのか?」


 黒髪少女は大きく頷いた。そして、「どうして俺がこんな面倒なことを」と小言を言っている。


 彼女の話を聞くと、どうやらこの戦争、つまりは人間同士の争いごとに不満があるわけではないらしい。


 彼女が問題視していること。それはどうやら進歩しすぎた科学技術だということらしい。


「このままではこの国はもうすぐ神々の怒りをかう。そうなる前にお前にこの国を転覆してもらう」


 冗談かっ?? っと鼻で笑おうとしたが、それはやめておいた。冗談だと冷やかすには彼女が言う言葉は強く、本気であることが伝わってきた。


 さらに、彼女が僕を見る目は縋りつくようなものであったということもあるかもしれない。自身の野望とかそういったものではないことがよくわかった。


「わかった。とりあえず話を聞くから一人称「俺」っていうのはやめてくれないか? 話はそれからだ」


 そう言うと、彼女は「俺って一人称結構気に入っているんだけどな。ならなんて呼べばいい? 私とかでいいのか?」と聞いてきた。


 何と言わせるか、考えている時重要なことに気づいた。彼女の名前をまだ聞いていないことだ。生意気な小娘、もとい幼女という初対面のインパクトで肝心なことが抜けていた。


「イズ」


 彼女は僕が名前を聞くとそう答えた。苗字だけ答えるなんてやはり変わった女だ。と彼女の顔を見た。


 それに気づいたのか、イズは僕の手に机の上にあったサインペンで、「iZ」と書いた。


「俺の名前はiZでイズと読む。愛称を考えたいならそこから考えたらいい」


 イズはそう言ってベッドに戻り途中まで読んでいたであろう雑誌を開いた。


 仕方がない。少しは可愛い一人称にしたい。


「なら、「おれっち」でどうだ?」


 名前もまだ聞いていないからそのぐらいしか出なかった。それでもこの見た目で一人称が「俺」よりははるかにましだろう。


「ふ・ざ・け・る・な」


 イズは即座に拒絶した。


 しかし、どうして陽大はどうしてこいつがいることに気づかなかったんだよ。そんなんだから、俺以外からもからかわれるのだ。


 そんなことを考えていた時、風呂場の方から彼の悲鳴が聞こえてきた。


 シャンプーが目に入ったくらいで毎回叫ぶなんてとても戦場を駆け抜ける軍人とは思えないな。




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