第41話 この立場、使い道充分につき危険


スカーレット辺境伯の領地について税収や特産品を調べていると飛竜の素材についての取引が複雑になっている事に気がつく。


飛竜素材は全て冒険者ギルドを経由して取引がされており、騎士が率いる山岳の兵団で倒された物の記録がない。飛竜などの冒険者や現地民の対処出来ない大型の魔物は兵団の出動、魔物素材による収益を補償金の足しにする事、魔物素材の利益が無くとも一定額の補償金を支払う事など細かく定められていた筈だが。


そもそも冒険者や現地民に協力を求めた場合人数の割合によって素材報酬、もしくは金品の報酬を渡すとあったがそれも充分にされているとは言えなそうだ。


気になったので兵の討伐記録も調べてみると、怪我人と遺体を運ぶのでやっとだったから素材が回収出来ていないとあるが…


サルタ殿の話と違う。


「これは…、呼び出してでも会った方がいいかもしれないな」

青髪の一族の立場は思っていたよりも格段に悪いのかもしれない。大々的に呼び出して王子である僕が目をかけている印象を付けた方が良さそうだ。


「ジャック、ウォード家のご子息は騎士訓練校のリズリー派に通っているんだよな?派閥内で己の立場を守れそうか分かるか?」


僕の問いかけにジャックはすぐに答えた。予想外だった答えに安心する。

「守れるかと思います。リズリー公爵家の御令息と俺の弟と偶然にも友人関係になったようで」


「それは心強いな。ウォード家のご子息を呼び出して現場を聞こう。学園のスケジュールは分かるか?なるべく早めに、重要な行事と被らない時に調節して呼び出して欲しい」


「承知いたしました。学園の見学で秘密裏に会うというのはやめるのですか?」


「学園にはその内見学に行こうとは思うが、周囲に分かるようにしなければ。リスクはあるがこういう時に守る為にこの立場を使わなければ意味がない」


僕もそういう助けられ方をしたから。


そう言うとジャックは覚悟を決めた表情でうなづいた。この行動は対立に波紋をおよぼす事になるだろう。


ーーーー


「ええ、ええ、飛竜の素材を持ち帰れた事は無いのですよ。どうしても人命優先になってしまうので」

スカーレット辺境伯はいかにも困った風を装い言った。


「そうか…、ウォード騎士男爵が存命の時もか?竜狩りの噂は私の耳に届くほどだったが…」


そう言うとスカーレット辺境伯は僕が怪しんでいる事を感じ取ったのだろう少し表情を堅くした。少し踏み込み過ぎたか…?


「確かにウォード騎士男爵は素晴らしい騎士でしたが…、それでも被害無しで討伐する事は難しかったようです」


「そうだったのか…。そういえば叔父上、僕が幼い頃に見せてもらった白銀の鱗の鎧はとても見事でした。あれはどちらで手に入れたのですか?やっぱり冒険者ギルドで素材を買うしか無いのでしょうか…?」


僕は少し考える素振りをした後後ろに控えているエイデン殿に話題を振る。僕の興味がこちらにあるのだと思ってもらえれば良いのだが、流石に難しいか…?


「あれはたしか、私が初めて近衞騎士に推薦された際、スカーレット辺境伯が贈ってくれた物では無かったか?」


「ええ、冒険者ギルドが損傷の少ない素材が手に入ったと御用聞きに来たものでスカル騎士に相応しいと思い作らせました。殿下も欲しいのであれば探させますよ」


にこやかにスカーレット辺境伯がしてきた提案を断る。怪しんでいるとは思われているが話を変える事はできた。…難しいな。


「私の予算では買えなそうだから遠慮しておくよ」


「殿下さえよろしければ私めから贈らせていただきますが…?」


「それこそ遠慮しておく。今の私には返せるものがないからな」


スカーレット辺境伯が退室してからエイデン殿に聞く。

「エイデン殿は僕の味方をしてくれるのか?」

「それが家の利益になるのならといった所でしょうか」

「そうか心に留めて置く。本当の事を言ってくれた事感謝する」

「そう言っていただけた事、嬉しく思います」

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