第40話 その差、諦めるには充分すぎて危険
「ベン、大丈夫……ではなさそうだな」
ベンはかけられてしまった料理でドロドロになっていた。怪我は軽い火傷で済んだみたいだ。即座に回復魔法をかける。治せる傷でよかった。悔しそうにベンの視線が伏せられる。
「リズリー公爵令息、助かった」
「やめてくれ、そんな呼び方。あの時ただ純粋に声を掛けられた嬉しさが多分ベンにわかる事は無いと思うけど、それでも、それでもただ嬉しかったんだ」私が切実にそう訴えた後にアイザックがへらりとした口調で続ける。
「おい、ベン。ルイーズの捨てられた仔犬みたいな表情見ろよ。呼び方変えられただけでこれだぜ?」
「おい、アイザック。お前ずっと失礼だぞ?」
「ベンはずっとルイーズの事、信じる事を恐れる野生の仔狼みたいだって言ってたよなあ?良いのかよ、こいつの事を自分から突き放して」
「しかし、やっぱり身分が…僕のせいで迷惑もかけた」
「おいおい、ルイーズの表情見ろよ。さっきより今の方が傷ついた表情してるぞ。」そう言うとアイザックは私の事をちらりと見た。下の者が私達リズリー一族の事を神聖視している事は理解しているはずだった。外から来た民族が異常と言っている事も分かっていた。ただ彼ら2人にそう思ってもらいたくなかっただけで。
建国から千年たってもこの問題は忘れ去られない程には多分根深い。
私は制服の上着を脱ぐとそれが汚れるのを厭わずベンにかけた。喉元はまだ発展途上だ、女とバレる事はないだろう。
「学園の洗濯に出してもらえれば私の元に返ってくる。」
「ルイーズ、何から何までありがとう」ベンがいう。でも私は何も出来ていない。ただ私の家の権力が守ってくれているだけで…
「ベンはその上着があれば1人で大丈夫だろ。俺は誰かさんの所為でしょげちゃったお坊ちゃまの所にいるからさっさと着替えて戻ってこい」
「でも…」
「ルイーズは黙れな。ベン、大丈夫だろ?その上着ちゃんと襟の所にリズリー公爵家の紋章が刺繍されているから何かあったらリズリー派の誰かが守ってくれる」
「ああ、大丈夫だ。ありがとう行ってくる」
「はいはい。」
ベンを見送ったアイザックはこちらを向く。
「ひでぇ顔。」
「なあ、ベンはずっとああなのか?」
私がそう聞くとアイザックは肩をすくめた。
「リズリー公爵家の奴に認められた事が浸透したんだろう。ここまで酷いのは初めてだけどな」
「やっぱり私の所為だ…嫌がらせは…スカル派の貴族だけ?私の派閥からは…」
「ルイーズ、落ち着け。あいつは、ベン・ウォードはルイーズのお陰でここにいる事が出来てる。リズリー派でのあいつの評価は派閥の違う所で家を守るために努力を重ねてリズリー公爵家の令息に認められた凄い奴だ。あいつの立場は複雑だからもしスカル派の方で入学していたらさっきの辺境伯の奴に使い潰されていたはずだ」
アイザックはそのまま続ける。
「あいつはお前が正しく使った権力で守られたんだ。それであいつも自分の出来る努力をした。それでも起こるいざこざはあいつが自分の生まれ育った土地を守ろうとする限り逃れられないよ」
「…凄いんだな、ベンは。それが分かるアイザックも。…アイザックはその、大丈夫なのか?」
「俺?俺は自他共に認めるルイーズの腰巾着だからさ。それに商人の息子舐めんなよ、身分の差なんて幼い頃から鍛えられてる」
そう言うとアイザックは誇らしげにニヤリと笑った。
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