第37話 この対立、主張強すぎにつき危険


「おじさんは山岳の狩人では無いし、おれのおよめさんでも無いだろう?」


「ぉじっ……」


青髪の一族の耳に魔法がかかっているのは何となく想像がついていたのです。それでも孤児院の無垢な子供ですら、左耳を見せる事を嫌がりました。青髪の一族は己の事をこっそり山岳の民と言ってそれを誇りにしていました。


何故、私が危ない山岳地帯に行っているかって?……そうですね、癒術校時代に正しい権力者が顔を見せない所ほど駄目になって行くという事を、逆にそれをするだけで驚くほど上手く行くと言う事を何度も目にしましたから。孤児が増えてしまった山岳地帯の孤児院に何度も視察に行くのは大金をはたいたとしても当たり前の事です。


話が逸れましたね、祝福を施しているという長老にも話を聞いてみたのです。それでも返ってくる答えはお前さんがこれを受け入れられるとは思わない祝福された人が不幸に見えた時のみそれは止めるべきだと言われてしまいまして…


「サルタ殿には不幸に見えた奴が居なかったわけだ」


「ええ皆、祝福を誇りに思っているようでした」


集落には新婚の夫婦が2組居ましたがどちらも集落に狩人の夫が戻って来た時に新妻が左耳に触れていて、それを見た集落の女衆が“あら、お熱いわねえ”と茶化しているのです。彼等にとってとても大切なものなのでしょう。


2年前から何度も視察に行っていたのに彼等について知ったのは殿下と仲良くなってから行った今回の視察が初めてなのです。それまでは知った気になっていただけのように感じます。


彼等は狩猟採取によって生活の糧を得ているようで小型から中型の魔物を狩って生計を立てていました。村の中央では雪オオカミを飼っていて狩猟の際に連れていっていました。そうです、この事について聞くと夏の飛竜討伐にも2年前までは呼ばれていたそうでその時までは2番目に大きい飛竜の魔石と飛竜の肉を討伐に参加した報酬としてもらっていたそうです。これに関しては皆さん不満が溜まっていたみたいで狩人ついて聞いたらこの話まで自然にしてくれました。


「そういえば今、山岳地帯の兵をまとめる役はスカーレット辺境伯の推薦だった者だな」


「ええ」


「選民思想のある者だったが…」


「だからこそ兵の殉職者が増えたのです。我が教会内では割と悪い注目をされています」


ーーーーー


「これはこれはライアン王子殿下、お呼び頂き光栄です。ご活躍の噂はかねがねお伺いしております」


「そう言って貰えて嬉しいよ。そう言うスカーレット辺境伯の領も商業都市として栄えているじゃないか」


「いえいえ、まだ王国一位とは程遠いですよ」


そこまで言うとスカーレット辺境伯は一度言葉を切る。次に続く王国一番の商業都市の賛辞の言葉と己の領の卑下の言葉を遮る為に僕は言葉を滑り込ませた。


「そんな活躍中のスカーレット辺境伯から臣籍降下の為の土地を譲り受けられるなんて僕も誉れ高い。これからの管理をする為の知識をぜひとも授けてほしい」


そう言うとスカーレット辺境伯は少し嫌な顔をした後実にいやらしい媚びへつらう為の笑みを浮かべた。


「いやいや、殿下のお手を煩わせるなんて申し訳がない。素晴らしい山脈地帯なのですが少々扱いが複雑でして。お預けいただければ殿下の輝かしい独り立ちまでに素晴らしい税収の土地にしてみせましょう」

建前だらけの嘘をよくも軽々とつく。彼の狙いは多分僕が土地の把握をする事を遅らせる為だろう。


「申し出はありがたいがそうはいかない。此処からは僕が独り立ちする為の準備期間だからな。しっかりと土地を管理できる事を臣民へ知らしめないと。それとも辺境伯殿は僕にその能力が無いとお思いで?」

そう言うとスカーレット辺境伯は焦った顔をする。しかし取り繕う様に言葉を重ねた。


「滅相もない。しかし、今は中央山脈から流れて来た飛竜の討伐が遅れていまして…。ご視察される際は充分にお気をつけください」


「ああ、ご忠告ありがとう」

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