第36話 この力、距離が離れても有効につき危険



目的は果たせたので道を開ける。エイデン殿は何か言いたげだったが母上は相当大きな何かを抱えているのだろう。母上の前で直接掘り起こす事は避けた方がいいと思われた。


「そう言えばライア、よく胸元に手を当てているわね?何か重大な疾患がありそうで母は心配だわ」


指摘に結構な心当たりがあって焦る。そんなに僕はわかりやすかったか。


「心配をかけてすみません。服が慣れない時についてしまった癖です。お気になさらず」


「そう。残念ね」


「申し訳ありません、すぐに直します」


そこまでの会話を終えると母上は不満げに去っていった。姿が見えなくなってからジャックとエイデン殿が寄ってくる。


「流石に少し怖かった」


「お疲れ様です。申し訳ありません、何も出来なかった。」


「いいんだ、あれで良かった」


そこまで言うと少しエイデン殿は心配そうに聞いてきた。


「先程は誤魔化しておられましたが疾患では無いのですね?」


「あ、ああ。その、子供じみていて恥ずかしいのだが…いつも首に御守りをかけていて不安になるとつい触ってしまうらしい」


なおさねばと考えながらもつい服越しに“御守り”を触る。普通に考えてしまえばただの魔法で固められた白い石だ。


あの時の僕は多分とても追い詰められていた。

僕の背が伸びる事を母上はとても怖がっていた。僕は何故自分が兄達と違う事をしなければならないのか疑問に思ってしまう事に罪悪感を感じていた。


「でも安心しました。殿下に心の支えがあって。どなたかに貰ったものなのですか?」


「そうなんだよ。一度しか会った事はないのだが僕を激励してくれた。」


嘘だ。ただあの子が落としていった物を拾っただけ。あの時は僕の何がわかるのかと少しムッとしたが人とはこんなにも真っ直ぐ存在出来るものかと鮮烈に印象に残り心惹かれてしまった。


でもあの子も親のいざこざによって女装を強いられ存在を隠されていた可能性があればあの言葉の意味ももっと沢山考えられた結果なのかも知れない。結局何も分からずあの子の存在は幻のようになってしまったが。


「殿下が変わられたのは3年前の狩猟の会の後でしたよね。リズリー公爵家の者ですか?」


ジャックが咳払いをする。僕は肯定するように表情を作ったが言葉で答えるのはやめておいた。




スカーレット辺境伯に会う少し前、サルタ殿から山岳地帯の民族に付いてわかったことがあると連絡をもらい会いに行った。


「サルタ殿」


「ライアン殿下、お時間をいただきありがとうございます」


「こちらこそ調べてくれてありがとう。それで、わかった事とは?」


「それが、彼等は7歳になると長老から“山向こうの女神の祝福”を授けてもらうみたいでそれから魔力の音が聞こえる様になるとの事です。」


サルタ殿は人払いをした執務室にも関わらず声を潜めた。


「祝福とは?魔法のようではあるが…。どの距離まで聞こえるかはわかるか?」


「私もノーン教以外の宗派がこんなに実用的だなんて考えてもみませんでした。なんでも音を聞くのと同じ感覚だそうで魔力の流れの大きさによっては2キロから5キロにもなるそうです」


「結構な範囲だな。祝福が何かはわかったのか?」


「それが、なかなか教えて貰えず…」

そう言うとサルタ殿は視察の時の事を話し始めた。

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