第35話 この感覚、針の上に立つようで危険
「やはり直轄領はウォード山岳地区で殆ど決まっているようです。サルタ殿の助言通りウォード家の騎士候補生との面会を取り付けましょう」
「その前に、スカーレット辺境伯にも話を聞いておきたい。順番を間違えてしまうのは良くないから」
ジャックの提案に少し待ったをかける。
本当は先に母上に相談すべきだが会って大丈夫だろうか。いや、言伝を頼んだ者が帰って来ないのは避けたいから待ち伏せして話すだけ話そう。
「それと、僕の母上は夕方に北の渡り廊下を通るはずだから会いに行く。少し失礼だが門前払いされて話が通らないよりはましだろう」
「承知致しました。しかし、先に手紙を出すべきです。陛下の近衞騎士に届けてもらえば王妃様も受け取らざるを得ないはず。」
「そうだな。ジャック、助言ありがとう。」
「それと、いち騎士候補生に直接聞いてしまうのも目立ってしまうから良くない気がする。僕は騎士訓練校に通った事が無いから見学という形で上手く会えないだろうか」
「そうですね…、少し調節が難しいですが出来ないことは無いです。お時間をいただきたく」
「わかった」
ジャックの報告を聞き、今後必要になる事を考え頭の中でリストアップしていく。間違える事は出来ない。簡単に僕の間違いのせいで地獄を見る人は増える。
「エイデン・スカル殿。父上の近衞を長い事勤めている君に頼みがある。僕の母上にこの手紙を届けて欲しい。」
「承知致しました。しかし返事を貰えるかどうか…」
「返事は貰えなくても構わない。届けてもらえればいいんだ。父上への忠誠心、信頼している。」
「第3王子殿下、あの子を我儘な子供のまま母親にしてしまい申し訳ありません」
「……ただ、色々な事の巡り合わせ悪かったと聞いている。僕も母上とは身を守る為の最低限の衝突で済ませられればと思っているよ。母上の兄なのだろう?余り責めないでくれ」
エイデン殿は律儀に届けた報告と返事を貰えなかった報告をしてくれた。説得してくれたのだろうか。1、2日待ってみる事にしたが案の定、返事が来る事はなかった。
「母上。」
「あらライアじゃない。久しぶりね、どうかしたのかしら?」
「お手紙で要件はお伝えしたはずですが。僕の直轄領が決まったそうですね?その事で相談が。」
「意外と耳が早いのね。直轄領なんて防衛費を払う以外にする事は無いわ。まさかそんな事も出来ないのかしら。…そんな訳無いわよね。さっさと端に避けない。ライア、マナーは教えた筈よ。」
母上はそう言うと話は終わったとばかりに立ち去ろうとする。黙っていられなかったのだろうエイデン殿が口を挟む。
「イザベラ、流石に言葉が過ぎる。それに第3王子殿下は王女では無い。避けるならば君が避けるべきだ。」
「あらお兄様いらっしゃったの。何の用かしら?あの時は知らない振りをしていたのに今更正論を装ってしゃしゃり出て来るなんてよっぽど自己愛に満ちているのね?ごめんなさいねライア兄弟喧嘩なんて見せてしまって。ライアはこうならない様にちゃんと兄を愛するのよ」
言い返そうとするエイデン殿を止める。これ以上の言い争いは不毛だ。
「分かっておりますよ、母上。それより領の状況を把握する為にスカーレット辺境伯との面談を取り付けたく」
「そんな事しても無駄だと言うのに…。勝手になさい。わたくしは忙しいの。」
「ありがとうございます。」
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