第32話 その一歩、世界を広げるには充分過ぎて危険


「ルイーズちゃん」


「お姉さま」


チェルシーを早めに下がらせて寝る準備をしているとお姉さまが部屋に来た。義兄さまがこの屋敷に来てから珍しい。


「どうしたのですか?」


「ルイーズが今日落ち込んでいるようだったから来ちゃった。」


お姉さまの後ろにいたチェルシーがホットミルクとお姉さまの枕を持って部屋に入ってくる。チェルシーはホットミルクの入ったカップ2つをテーブルに置きベッドの枕の位置を調節するとすぐに退室した。


お姉さまが私にホットミルクを差し出しながら言う

「久しぶりに一緒に寝ましょう?一緒に絵本も読もうかしら」


「お姉さま、私もう絵本は卒業しましたわ」



「お姉さま、あのね」

ベッドでお姉さまの手を握りながらつぶやく。お姉さまはすこし微笑み静かに私の独白を聞く。


「周りの同じ年の子がみんな大人っぽいんですの。でも皆んなわたくしの事をすごい人として扱うんですの。でもお家の外では上手く出来ない事も多くて」


「怖くなっちゃった?」

キュと私が小さく頷くとお姉さまは私の頭を優しく撫でた。


「ルイーズはとっても成長したわ。わたくしが寂しくなっちゃうくらい」


「そうなのでしょうか」


「ええ。でもね、覚えていて。わたくしはいつでもルイーズの味方よ。確かに学校と屋敷とでは距離は遠くなっちゃうけど困った時はいつでも頼ってちょうだい。」


「いいの?」


「もちろん」


「わたくし、それでも大人っぽくなれる?」


「うふふ、ええもちろん。めいいっぱいやりたい事をやりなさい。それが貴女の力になるわ」


ーーー


「すまなかった」


「急にどうした」


次の日、小爵令息に謝りに行くとそいつはギョッとしながら少し後ずさった。


「いや、確かにムカついたが言わなくていい事まで言ってしまったから直接謝りたいと思ったんだ。あの時の私はだいぶ子供っぽかった」


「アイザック殿を通して君の謝罪はもらっていたからもういいよ。俺も本来なら支える立場なのに言い過ぎたからすまなかった。それに君の剣術は尊敬している。入学試験の模擬戦でとても強いんだなと思った」


「模擬戦…?」

私が記憶をたどっていると小爵令息は苦笑した。


「やっぱり、覚えていないんだな。いつかは追いついてみせる。後、ロゼッタは渡さない」


「確かにロゼッタ嬢は素敵な人だと思うし、君の事も応援しているが…」なぜ渡さないなのだろう?ダンスレッスンでパートナーになってもらっているだけなのに。


「…けない」


「えっ」


「絶対に負けないからなっ!!!」

小爵令息はそう言うと立ち去ってしまった。仲直り失敗してしまった。少し凹む。


「さすがにあれは可哀想だわ」

いつの間にか居るアイザックが私を小突く。

ベンはその隣で困った顔をしていた。

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