第30話 この教え、出どころ不明につき危険


それからも僕は図書館に通うようになった。この国の歴史は大まかに習ったがそれぞれの派閥の思想が全く違う事に気がついた僕はもう少し建国当初の歴史を調べてみる事にしたのだ。


リズリー前当主夫人に教わっている回復魔法は初歩の解毒が出来るようになった。ネズミ駆除剤を誤って混入させてしまったの言い訳がされないようになった。もちろん毒見役はほとんど死ななくなった。


技術発展の歴史ももう少し深掘りしてみようか、何か見つかるかもしれない。


「最近よく図書館に来られていますね」


「ノーム次期公爵。」


ノーム公爵家はこの国で信仰される主な宗教であるノーン教のトップである枢機卿を代々勤めている。建国時に宗教の立ち位置を説くために総本山から独立した一家だ。


「ぜひサルタと呼んでください、第3王子殿下」

そう言うとサルタ殿は人好きのする笑みを浮かべた。


「わかった。僕の事も名前で呼んでくれ、サルタ殿が良かったらだが。」


「もちろん、そうさせていただきます。ライアン殿下」


それから図書館で見かけると軽く挨拶を交わすようになった。サルタは王城の敷地内にある国立中央図書館の館長を勤めている。


「少し気をつけた方が良いかもしれませんね」


部屋で身内だけになるなりジャックがサルタについて言う。

「距離の詰め方が早すぎる。王妃に睨まれている今我々と関わるメリットは余り無いはずです。」


そうかもしれないが味方が少ない今は中立でもいいが僕の事を知ってくれている人を増やすべきだ。その事を伝えるとジャックは困った顔で言った。


「申し訳ありませんが2週間ほど時間をください。教会内部の事情を調べきれて居ませんのでそれまではリスクを取らず挨拶だけにしていただきたく」


ジャックはそれから教会内の派閥について調べサルタ殿が比較的安全な思想の派閥に属している事を確認した。護衛を必ずつけるように言われたが交流する事を許される。


時折雑談をするようになった時気になっていた事を直接きいてみた。


「なぜ、サルタ殿は私に話しかけてくれるんだ?」


「教えには如何なる見た目・立場・信念を持つものにも敬愛を持って接しなさい、困っている者に手を差し伸べなさいとあります。ライアン殿下の事がまだ王女だと認識されていた際、お恥ずかしながら私はそれが出来ませんでした。

しかし我らも同じ気持ちなのです、いつも真っ先に手を差し伸べるリズリー家に先を越されますが。」


「今ですら立場の弱い私の更に立場の弱かった時にどうにか出来る存在は中々いないよ。サルタ殿が気に病む事ではない」


「お優しいのですね。それでも悔しいのです。教えを唱える回数は我々の方が多いのに」


「そうなのか」


「ええ」

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