第29話 この空間、取り込むには膨大過ぎて危険


「リズリー公爵家に関する文献でしたら一般図書に119件、保護対象書庫に33件あります。」


与えられた休憩の時間、僕は図書館に来ていた。あの文献は何を意味するのか、紫の瞳の一族とは一体何なのか。王国が始まってから約千年、その前まで紫の瞳の一族は隣国の奴隷だったと言う。それは何故なのか。


「禁書域の蔵書は図書館を任されている我らノーム一族でも入る事は叶わないのです。それこそ国王と次期国王あるいは保存結界の有識者であるリズリー家当主以外は立ち入ることも出来ません」


歴史ではこの国が隣国から独立する前、紫の瞳の一族は人として扱われなかったという。隣国の歴史では合併した国をまとめていた少数部族を奴隷としたとだけしか記載されていなかった。


禁書域には入れないし…。


「ジャック、紫の瞳の一族についての伝承はもう無いのか?」


「殿下は何故、それを調べるのですか?夫人はあれを知るだけでいいと言っていたではないですか」


「もっと知りたいと思うから調べるんだ。」


「紫混じりの私やリズリー家の為だけでは無いのですね?」


「全部自分の為だ。ただ君たちのことが知りたい」


「かしこまりましたお供します。ただし、最近休養が足りないようなので途中で止めさせてもらいますけど。」


それから自分が入れる禁書域以外にある蔵書を調べてもあの貸してもらった本以上の事は書かれていなかった。


この国は魔術のリズリー家・武術のスカル家・宗教家のノーム家・外交のキャンベル家と言う4つの公爵家とそれに付随する家の派閥で成り立っている。千年前の建国当初から変わらぬ4大公爵家だが今は権力争いに注力をする3つの公爵家に比べ我が道を行くリズリー家の一強となっている。


それでも未だ公爵家がバランスを保っているのはリズリー家が一度も王妃を輩出していない事や権力よりも自領の発展にしか興味がないからだろう。


調べ物の休憩にジャックが紅茶を淹れてくれる。

「随分と様になったな」


「ありがとうございます。いつまでも渋い紅茶をお出しする訳にはいきませんから」


「それにしても、あの時文官の制服の袖で顔を拭おうとしていた君が僕の補佐官になるとはあの時では想像がつかなかった。魔法省で働いていた方が安全で充実していたのではないか?」


「私もあの時の王女様が実は王子様だとは思いもしませんでした。今も危険ではありますが充実していますよ。まあ家に言われた為でもありますが、私自身この仕事を気に入っています。ところで殿下は紫の瞳についてどうお考えですか?」


「紫の瞳?また急に聞いてくるな…。確かに僕が生まれてから初めて救われたと思ったのはそれを持つ人によってもたらされた。だから紫の瞳や紫混じりに対して安心感はあるし執着はしてしまうが優れていると思われている根源はその血筋に受け継がれている教えによるものだろう?悪いがこれから重責を任せられるであろう僕が見た目の特徴だけで人を判断するのは良くない事だと思う」


心のなかではだいぶ贔屓をしてしまってる事を謝りながら答えるとジャックはよくわからない顔で笑った。


「……そういうところですよ。殿下、どうぞ俺の事は手足のように使ってください。殿下は俺に気を使い過ぎる」

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