第28話 その嫉妬、配慮の不足はあまりにも危険


そのダンスレッスンの日、ロゼッタ嬢の制服が少し汚れている事に気がついた。


「ロゼッタ嬢、それはどうしたのですか?」

「お恥ずかしい姿で申し訳ありませんわ。ひとりでいる所を派閥違いの方に狙われましたの。油断しましたわ。」


聞けば癒術専門校は同派閥で2人1組になるがクラスは派閥ごとに分かれていないらしい。


「大丈夫なの?もしかして私のダンスパートナーである事も関係している?」


「ええ。ただ、あとで報復するのでルイーズ様は気にしないでくださいまし。わたくしのしっかりした性格が評価されてお役目を貰えた事誇りに思っておりますの。」


授業が終わった後アイザック達と騎士校に戻ろうとしていた時にその騒ぎは起きた。見るとロゼッタ嬢が数人の令嬢に囲まれている。慌てて助けに行く。


「何をしているんですか」


グループをまとめている女子が名乗る。スカル家?ロゼッタ嬢が耳打ちしてくる。

「スカル公爵家の分家の方ですわ。ルイーズ様の噂を聞いてお近づきになる為に送り込んできたのです。」


ロゼッタ嬢は私に言い寄ろうとして来るスカル家の令嬢を視線で牽制すると声を上げそのグループを追い払った。

「ルイーズ様はリズリー家の婿養子になると噂のある方。お立場の為にも交流したいのなら家を通してくださいませ。」


「ごめん」

「いえ、元はと言えば授業中のおしゃべりで頬を赤らめてしまったわたくしがいけないのです。それに、助けてくださりありがとうございます。」


次の日の朝の自主練でアイザックとベンの模擬戦を見ている時、件の小爵令息の大きな世間話が背後から聞こえてくる。


「リズリー公爵家の婿養子候補は見境なく女を惑わせるらしい。元平民が下品に粋がると碌なことがないな。その瞳も家に取り入る為のにせものだろう。」


喧嘩を売られたらしい。よし、買ってやろう。


「家がリズリー派に属していると言うのに瞳の色が全てでそれ以外が評価されたとは思ってもいないらしい。だから幼馴染ともまともな会話が出来ないのだろうな」


振り返り小爵令息を挑発する様に見上げる。案の定、小爵令息は激昂し殴りかかって来た。一発くらい殴られてやろうと動かずにいたがいつの間にか近くにきていたアイザックが庇うように間に入る。そしてあっという間に小爵令息を宥めて追い返してしまった。



「反省した。」

「当たり前だ。自分の影響力考えないルイーズが悪いからな」

「わかってるよ。でもライズ伯爵令嬢と話すの楽しかったんだ。純粋にそれだけだったから」


「お前なぁ、リズリー家のお姫様と結婚が決まってるとか言われているのに他に隙を与えるのは悪いし、さっきの小爵令息に対しての答え方はなおさら悪い。迷惑をかける事は知っておくべきだからな」


「ごめん」


「小爵令息の方には俺からフォロー入れておくよ。あのレストランでいいか、あとで昼食代請求するから」

「わかった」



午前の授業が終わり、ベンと昼ご飯を食べている時も朝の事が頭を離れない。

「本当は私が謝りに行くべきだったんだろうな」


「まだ言っているのか、ルイーズが行っても火に油を注ぐだけで意味ないと思うぞ。アイザックならそう言うところ上手くやってくれる。」


「ベンって随分アイザックの事知ってるよな」


「話す機会が多かっただけだと思うが。ルイーズってはじめ会ったときは何でも出来て嫌味のないすごい奴って印象だったのだが、そんな事ない普通の奴だったんだな」


そう言うとベンは私の頭をふわりと撫でた。


「僕はルイーズのお陰で入学出来たようなものだから感謝しているんだ。これから迷惑だと感じることは出てくるとは思うが手のかかる弟が1人増えた気分だから気にしないでくれ。話ならいくらでも聞くから」


「ありがとう。でもアイザックには嫌われちゃうかな」


「それは、大丈夫だと思うぞ。………多分。」

「……多分かぁ」

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