第22話 この立場、自由度低めにつき危険
父上に癒術を学びたいと伝え、ほぼ毎日学んでいる進捗が良かった帝王学の1週間の内の半日を充てたいと言うと父上は渋い顔をした。
「確かに帝王学は本来学んでいるべきところまで進んではいるが、他にも学ぶべき事はあるだろう。」
「しかし、今の私に1番必要なものは癒術です」
「毒見役がいるではないか。その為に付けている。聞けば孤児院への寄付も最低限で済ませ上級ポーションを買い漁っているようだな?優先順位を間違えてしまえば己を守る権力を身に付けることは出来ない。」
父上は諭すように僕に言った。それでも僕は目の前で苦しむ者を救う努力をしない存在になりたくはなかった。何よりも自分がそれで救われているから。
「わたくしっ、私は自分を見い出してくれた方に恥じぬ生き方をしたいだけです。」
「ルイーズちゃんの事か」
「………。」
父上の言葉は図星だった。一度言葉に詰まったが取り繕うように続ける。
「それに、癒術を学ぶ事は自分を守る事にも繋がります。決して無駄なことではありません。」
父上は頭を抱えた。しかし母上を止めきれていないのも事実なのだから許可は降りるだろう。降りてほしい。その後、この交渉をする場合は言う順番が逆だと諭されて許可してもらった。
「まさか夫人直々に教えてもらえるとは思っていなかった」
「殿下直々の願いを叶える大役を他の者に任せられませんわ」
ふわりと微笑むだけの仕草に気品が滲む。その仕草の裏にどれだけの努力が潜んでいるのだろう?それとも才能で簡単にやってのけるのだろうか?
癒術の教師は意外にも前当主夫人本人がしてくれる事になった。これなら解毒をする回復魔法も教われる。
夫人は目を伏せ少し懐かしそうに続ける。
「2年前のあの日、わたくしの2番目の子は殿下のお側へ行き助けとなる事を選んでしまいました。殿下もあの後、直ぐに行動なさったのでしょう?ご立派でしたわ。」
夫人は一度そこで言葉を切ると覚悟を決めたように言った。
「リズリー家は今後第3王子殿下をお支えして行くこととなるでしょう。そこでひとつ背負っていただきたいものがあるのです。」
「もし御息女が私を支えてくれるようになったらもちろん大切にするつもりだが」
「そこは殿下を疑っておりませんわ。背負っていただきたいのは王家とリズリー家の歴史なのです。」
そう言うと夫人はリズリー公爵家の歴史を学ぶときに使ったものと同じ本を渡してきた。王家にあった蔵書と違う部分は不自然にページが足されている事と鍵付きである事だった。
パルム王国とリズリー公爵家の起こりはパルム辺境領の独立と“紫の瞳の一族”の臣民権獲得についての話が主で初代国王と元奴隷だったリズリー家初代当主の友情と成り上がりの話だった筈だ。
「今拝見しても?」
「少しでしたら。」
本を開き付け足されたページを見ると最初の文章から既に衝撃的な事が書かれていた。
“紫の瞳の心は人に非ずけして国一番の権力を持たせるべからず”
咄嗟に本を閉じ鍵をかける。
「夫人は私にこれを背負えと言うのか」
「はい。王家の方では言伝となっていた筈ですが現国王の様子では廃れてしまっているかと思いまして。歴史書はお好きな時に返していただければ構いません。殿下がこの本を読んだ後でも何を選択していただいても構いません。殿下にはただ知っておいていただきたいのです。」
記憶の中の彼女とよく似た紫の瞳が僕を射ぬいた。
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