第20話 その支度、過保護につき危険
入学式前日、私はエイベルとチェルシーに付き添いを頼み騎士候補生訓練校に来ていた。馬で登校するため厩舎への挨拶と、着替えがある為その時使用する様にと貴族寮を割り当てて貰えたのを確認しに行く。
騎士候補生の制服を着て髪の毛を高い位置で1つに束ねる。我が家の女性陣には好評だったが男性陣は複雑な表情をしていた。お父さまから色々な種類の設置型の結界のスクロールを渡される。こんなに使わないと思う。
「行って参ります。夕方には戻ります。」
「気をつけるんだぞ。」
エイベルとチェルシーが馬を用意してくれていた。私が準備出来たのを見て黒馬の方を渡してくる。
「お嬢を坊っちゃまと呼ぶのは慣れませんな。お嬢はすっかり言動が板についてしまって」
「3年はそれで通すのだから慣れてくれよ」
馬は10歳の誕生日にプレゼントしてもらった、私が自力で乗れなかった時は屈んでくれた、賢くて優しい馬である。ジョセフィーヌと名付けたが呼んでいるうちにジョッフィーになってしまった。艶やかな黒毛が綺麗だ。
今日も登校を想定して馬で行く。
「ジョッフィー、今日からよろしく!」
エイベルとチェルシーには家の馬を2人乗りで着いてきてもらった。
タウンハウスの建ち並ぶ貴族街を抜け大通りに出る。年の変わり目、叙任式から1週間も経っていないと言うことから様々な機関と店が建ち並ぶ中央大通りは沢山の人が賑わっていた。馬車・騎馬通行道を通って王都の中央を流れる河の反対側、学問機関と商業施設の建ち並ぶ区画へ向かう。
渡ってすぐの中央道沿いに騎士候補生訓練校がある。奥の隣に癒術専門校、向かいに魔法科学専門校があり、どこも入学式前日という事で賑わっていた。
騎士候補生訓練校の前で案内の教師が待っていた。
「騎士候補生のルイーズ・リズリー様でいらっしゃいますか?本日の案内とクラス担任をさせていただきます、エリオット・ライズと申します。混み合っております為この場では略した挨拶で失礼します。」
「構わないよ教師殿、これから3年間よろしく頼む。」
正門の警備室で昼の耐毒練習に使う持ち込みの毒の確認、今日は今後問題が起きぬよう呑んで見せ手順を確認すると言った事もする。やっぱり通うにしても三食練習出来ないのは勿体無い。完璧に解毒出来るもの兼、万が一にお母さまが呼び出しに応じるならという事でやっと許可してもらったが。
最初に厩舎に案内され馬を預ける。馬の預け方は明日からも同じ手順のようだ。そのままエリオット先生に案内されて耐毒訓練用の毒の持ち込み手順の確認、持ち込む毒のリスト提出、持ち物検査をする警備員との顔合わせを終えて割り当てられた貴族寮に案内される。あとは教科書の受け取り場所を聞き明日からの準備が終わったら門の警備室に声をかけて帰っていいらしい。貴族寮は程よく広々としていて側仕え用の部屋もセットで付いていた。流石に豪華すぎないか?
着いたらすぐに盗聴・盗撮防止の結界を展開し、次に鍵付き・解錠記録機能付きの侵入防止結界を展開する。お父さま渾身の力作である。やり過ぎである。結界の鍵は私以外にお父さまとお母さま、エイベル、ビリーが持っている。
…やり過ぎである。
「こんなにスクロール要らないんだけどなあ」
寮に個別で付いていたシャワールームに鍵付き結界を二重にし、こちらの鍵はチェルシーに持っていてもらう事にした。ここまで対策をしていれば問題など起こらないだろう。
…と言うか元々が貴族の騎士の設備豪華すぎである。王宮勤めが想定されていて殆どが名誉さえあればいい状態なのだろうな。遠征の実践で泣きを見そうである。
教科書と訓練用の鎧、トレーニング着の配布はエイベルが行くと申し出てくれたが一緒に行く事にした。
配布場所で試験の時のひとりがいた。会いたかった人に会えて嬉しい。
「バトラー殿!会えてよかった!教科書の受け取りか?」
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