第19話 その少女、お茶目な思いつきににつき危険


結論から言おう。私は勝利した。

候補生試験は主席合格。通学の許可と家から通う許可それに付随する辻褄合わせ。3年間、バレずに優秀な成績と態度を納めれば即、第3王子殿下の近衛騎士になれる確約を取り付けた。


お父さまには王様が大衆演説の際に使用する結界のスクロールを渡された。何かあったらすぐに使えと言われるが、使ったら動けなくなっちゃうんだよなあ。どんなに離れているところでもお父さまが来るまで待機は避けたい。まあ、その時考えよう。


「ふふふ♪」


候補生の制服が出来たので袖を通す。これは結構さまになっているんじゃない?詰め襟だから喉元を隠せそうだ。あまり必要無さそうではあるけど。さ、お姉さまに見せに行こう。


「お姉さま!見てください!」

「あら、ルイーズよく似合ってるわ!」


いつものように出迎えてくれたお姉さまに抱きつこうとしたら義兄さまに止められる。ケチ。


「その格好で抱きつくのはやめてくれ」

「確かに紳士的では無いわね」


そしてお姉さまにも同意されてしまった。そんなあと思ったけれど思い付いた事をやってみる。

お姉さまの手をとり傅いて手の甲にキスを落とす。気分は物語に登場する格好良い騎士様だ。


「あ"っ」と義兄さまは声を上げた。ふふん。

そしてお姉さま見上げて問いかける。くらえ、私の上目遣い!!


「姉上、どうでしょうか。さまになっておりますか?」

「まあっ♡あらあら、あらあら最高に可愛くて格好良いわ!うふふ、立派な騎士様ね!」いつものようにぎゅむっと抱きしめられる。完全勝利した。


ーーーーーーー


「あらミハイル、また授業をサボってしまわれたのですか?ならばわたくしとお茶をしましょう?」


「イザベラ!ありがとう、そう言ってくれるのは君だけだよ。」


幼少期の記憶だ。勉強が好きでは無い兄上を兄上の婚約者であるイザベラは際限なく甘やかした。王太子と王太子妃としての資質が疑われるほどにその2人はずっと2人だけの世界に閉じこもっていた。


それで私は兄上の名誉と国民の命を天秤にかけなくてはならなかった。前者を選ぶ事は出来なかった。王太子の座は私に移った。それをよしとしない兄上とスカル公爵家による杜撰な悪巧みにより兄上は呆気なくその命を失った。


牢の格子ごしに義姉上いや、イザベラ・スカル公爵令嬢と対面する。スカル公爵家は事が発覚するとすぐにイザベラを私に売った。王太子になる為には婚約者が、正妃になるのが優しいだけの子爵令嬢では無理だと判断した私はその手に乗った。


「あら、わたくしからミハイルを奪っておいてよくそんな事が出来ますわね。ヴィクトリア様にちょっかいをかけて振られた中途半端な貴方にはたしてその座が務まるかしら」


「その中途半端にすら兄上はなれなかったんだろう」


茶目っ気たっぷりに微笑んで兄上を呼ぶイザベラはもういない。イザベラは気丈な言葉しか吐かなかったがそれでも、兄上と運命を共にする事は選ばなかった。


(また繰り返してしまうのか)


1番目の子はイザベラに甘やかされた所為か兄上に似て甘えが目立つ。

2番目の子は側妃に似て優しすぎる。

3番目の子は私に似ている。


そして、

「ルイーズは間違いなく、ライアン王子殿下を"選んで"しまったようです。我が家はルイーズの決定を見守ろうと思います。もう少し穏便に済めばよかったのですが」


イザベラが嫌がりそうな事が既に起こりつつある。それでも何故、甘やかし守る事だけが愛情と信じて疑わないのだろう。

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