第17話 その一族、話題になるくらい注目されて危険


1日目の筆記試験はもちろんほとんど正解を書けたと思う。このくらいはやらなければ王様の目には止まらないだろう。因みに願書や答案用紙の名前を書く欄は少し読みづらくなるように書いた。目論み通り「ルイス・リズリー」と呼ばれた。言及されたらまさか試験官が名前を呼び間違えるなんて思ってませんでした、とでも言おう。確信犯である。


リズリーの名前が出た事から1日目で既に話題になりつつあるようだった。

「リズリー公爵家が遂に軍事省に手を出してきた。」と。

そんなに騒つかなくてもいいんじゃない?


模擬戦で印象に残ったのは2人、初日に対戦相手になったベン・ウォードと受験生同士の模擬戦最終日に戦ったアイザック・バトラーだ。アイザックは我が家の研究所の品を卸している商会の一つバトラー商会のご子息らしい。


他の試合は平民だろうが貴族だろうが印象に残らなかった。リズリーの名前に対して嫌な緊張感を与えてしまったのは申し訳無く思うが。


ベン・ウォードは私と比べてしまうと技術も力も足りないが剣術と試合に対する向き合い方が真摯だ。義兄さまの指導を参考に試合中にこっそりアドバイスをすると嫌な顔ひとつせずお礼を言われた。


クールダウンを済ませ寮に戻ろうとしていた時に声をかけられる。

「急に話しかけてしまい済まない。不作法を許して欲しいが明日からの午前の自主訓練、ぜひご一緒願いたく。先程も紹介があったがウォード家が長男、ベン・ウォードだ。」


真面目が服を着てるかのようなその男は恐る恐る、しかしこれまた真摯にその願いを口にした。


「ちょうど練習相手を探してたんだ。こちらこそよろしく。私はルイーズ・リズリーだ。」


「ルイーズ?」疑問に思ったのだろうベンが繰り返す。

「ああ、試験官が読み間違えたんだろう。女々しい名前だから内緒で頼むよ?」私はそれにイタズラっぽく答えた。


ベンはスカル公爵家派閥の辺境伯領に駐在していた騎士名誉男爵のご子息らしい。父親は2年前の害獣討伐の際に殉職、しかし辺境の地を守るその背中に憧れ騎士を目指しているとのこと。「今はただの平民だ。ただ必ずや名誉を賜りあの地と家族を守りたい。」騎士を目指す理由をきくとベンは目を輝かせそう答えた。


そしてもう1人、アイザック・バトラーはとても強かった。そしてうるさかった。試合開始直後に打ち込んできたそれに応戦しようとするとそのヘラヘラした目がニイと細められた。

そして剣を持つ手に衝撃がはいる。

……カラン。1回目、摸造剣が手から離れる。


流れる様な奴の変則的な動きに翻弄される。負けてしまう。冷や汗が滲む。何とか打ち払ったそれで1対1。力はどうやら私の方が強いようだ。「馬鹿力め」と奴が吐き捨てる。


一度だけ剣を首筋に突きつけられる。カウントはされないが差を見せつけられているようで悔しい。必死になって動きに対応していく。時間が経つほどにその動きに慣れていく。大丈夫、まだ挽回できる。それにしても、


「うわ、マジかよもう対応して来やがった。化け物かよ」少しの事で面と向かってギャーギャー騒ぐその口調が新鮮で面白い。


「随分とはっきり言うんだな」

「へーへー、リズリー家がこんな小ちゃな事に腹を立てるとは思ってませんでした」

「いや、腹を立ててる訳でなく。……面と向かって言われるのは初めてだから、さっぱりとして心地良い。」

そう言うとそいつはポカンと目を見開き次の私が与えた打撃で剣を弾き飛ばされる。よし、2回目。


「くっそ、美女に言われれば嬉しい言葉なのに〜。動揺した、狡いぞその精神攻撃」


そしてそいつは長い打ち合いの最中手が疲れてきたのだろう剣を取り落とした。これで3回目だ。なんとか勝ててほっとする。明日は試験最終日だ。あわよくば試験官にも勝ちたい。


しかし私は最終試験の前に王様に呼び出された。

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