第16話 その試験、多方面から評価されるので危険


母上の軟禁は叙任式から解けてしまった。父上に保護されてから会う機会は滅多になかったがそれでも同じ場所で生活している為、顔を合わせる機会が出てくる。

城の廊下ですれ違う時、母上が連れているメイドの1人が目についた。


(足に鎖をつけてる…)


俯きがちに歩くそのメイドは父上に毒見役を紹介された時を彷彿とさせた。すれ違う寸前に母上は立ち止まりこちらを見ずに声をかけてきた。程よく高い声が辺りに響く。


「少し前から、王太子に毒見役をつける事に致しましたの。継承権を持つものが現れてしまったので用心した方が良いかと思いまして。殿下もどうか用心なさってください。…まあ、限りある味方の無駄遣いになってしまうかもしれませんが」


言いたいことを言い切った母上はそのまま歩き出した。僕も振り返らずそのまま歩き出した。母上から遠ざかったところで後ろについていた、父上がつけてくれた毒見役のメイドが言う。


「どうか気になさらないでください。わたくしは殿下を御守り出来るなら本望です。立場が弱いわたくしに逃げ出す可能性もあるのに鎖を外し人として扱ってくださり上級ポーションを与えてくださった殿下は得難い人です。」


そしてその日の夕食に致死性の毒が入っていた。

呆気なく、次の日毒見役が変わった。

最後までポーションを使わなかったその子は少しでも役に立つ人にそれを使う事、どうか生き延びてと言い残していった。


それから、月に1〜2度毒見役は変わった。中には銀食器やポーションのお陰で長くもった人も居たが。上級ポーションは使う人と使わない人がいた。予算が足りず用意できない時もあった。皆、僕に生き延びてと言う。僕が此処にいる意味も何が正しいのかも分からなくなってしまった。


月明かりを受けて輝くそれを縋るように抱きしめる。助けてほしい、でも助けないでほしい。いや違う、出来る事を探さなくては。まだ僕には何か足りない。


父上の執務室へ呼び出された帰りの事だった。

癒術省相談役が廊下脇に避けてお辞儀をする。


リズリー前当主夫人。ルイーズ様の母君。


僕が立ち止まるとふわりとさりげなく回復魔法が発動する。最近感じていた身体の怠さが消える。僕が声をかけていいのだろうか。戸惑っている内に夫人は立ち去ってしまった。


回復魔法は毒に効く?僕に遅効性の毒も盛られていたのか?分からなかった。回復魔法は魔法を学ぶ一環で齧る程度に学んだだけだった。学んだ方がいいのは分かった。癒術省に教師の派遣を頼もう。毒物の勉強をしよう。僕はそんな事も思いつかなかった。


ーーーーー


耐毒訓練は裏切りの王が解毒成功率50%くらい、本に載っているものは8割くらい覚えた。

12歳の夏に騎士候補生の入隊試験がある。そこで王様に欲しいと思わせるくらいの成績をとらなければならない。


自宅から通う事を許され、騎士になる事を許容される位には。


試験は王城で必要なマナーと公式の王国の歴史、国の法律等王城で必要になる一般常識の筆記試験と剣術の実力試験は受験生同士の模擬戦5回と試験官との模擬戦1回だ。どちらかが3回剣を落とすか自分の意思で剣を手放すかで負けになる。相手の動きを封じた場合と剣を相手に突きつけた場合は一度離れて仕切り直しとなる。


試験期間は1週間で初日に筆記試験、2日目から午前中に自主訓練、午後に模擬戦となる。試験期間中の寮はお母さまが癒術省貴族寮を用意してくれた。お父さまには癒術省の見学をしに行く事になっている。


体格はお姉さまに抱きついた時、義兄さまが顔を顰めるくらいには鍛えられた。気分がいい。革製の胸当てと男物の服を用意してもらった。本当にバレないかは少し不安だ。試験までの半年はあっという間に過ぎていった。

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