第15話 その遺伝、それで良いのか不安になるくらいは危険


ある夕食の時、お父さまが言った。

「ルイーズは最近、ますますヴィーに似てきたな」


言われた時、お父さまが何を言っているのか分からなくなるくらいには筋肉のつけ方を男性の体型に寄せていた。ドレスでなんとか誤魔化してはいるが。


「あらあら、まだわたくしの方が鍛えておりましたわ」

そして、お母さまの言葉に恐れ慄く。……お母さま?お父さまが私の体型について不思議に思わないのは前例があったからなのか。そしてお母さまはどれくらい鍛えていたのだろう。

今のお母さまは細っそりとした腕、くびれた腰回りボンキュッボンな体型の美女なのに。……あれ、思考回路が兵士達に似てきたな。


体型に関しての苦しい言い訳を言わずに済んでいるのが不思議なくらいには筋肉がついていた。腕も肩も程よく太くがっしりとしている。それこそ男性ものの服を着たらそうとしか見えないくらいには。ドレスの形とチェルシーの努力でなんとかなっている、いやギリギリアウトなそれに対してお母さまが大丈夫と言う根拠はそこだったのかもしれない。よし、もう少しメニューを増やそう。


お父さまは懐かしむように微笑み、お姉さまは苦笑し、義兄さまが私と同じくらい驚いている中お母さまは綺麗にふふふと笑った。



「お母さまってそんなに鍛えていたんですの?」


次の日の耐毒訓練の練習中、お姉さまに気になった事を聞いてみた。お姉さまは毒の準備をしながら思案する。


「そうですわね、今の癒術省戦闘部隊隊長は知ってる?」

「話には聞いたことがあります。確か、男性でしたよね」

「同じくらいの体格をしてたそうよ。ただお母さまの場合筋肉は満遍なく鍛えていたから、女性らしい体格のまま筋肉だけ盛り上がっていたそうだけど。」

「え、今では想像つきません。」


「そうねえ、わたくしも話を聞いた事しか無くて…。でも己の筋肉を鍛えるより鍛えられていない筋肉を鍛える方が楽しかったみたいよ。自分を鍛えるのはすぐにやめてしまったみたい。」


そしてあの著書に発展するのか。なんだか想像がついてしまった。


最近の耐毒訓練は裏切りの王と呼ばれているエリクサーに反応する毒の練習をしている。料理に混ぜられている時に見分ける前にまだその物自体を解毒させる事が出来ていないので朝食の後にお姉さまに時間を作ってもらい訓練していた。お姉さまと一緒の時間は嬉しいが上手くいかない事をちょっと嬉しく思ってしまう事に後ろめたさを感じる。


「神経毒と魔力循環破壊毒の両方の作用があるからやられていない魔力循環から回復魔法を生成して先に神経を治して…」


お姉さまの説明が難しい。魔法の発動なんて感覚でしかやった事が無い私には正常な魔力循環を見分けるのは至難の業である。出来たとしても集められる回復魔法は弱くて足りない。


「難しい…」

「ルイーズの場合、一旦何も考えずに感覚でやってみた方が早いかもしれないわね。」


その日も上手くいかず、お姉さまの回復魔法で治してもらった。お姉さまの回復魔法は相変わらず繊細で優しくてほっとする。最近は怪我をポーションで治してしまっているからやっぱり直接回復魔法をかけてもらえる事を嬉しく感じてしまう。


「お姉さまのお母さま譲りの回復魔法羨ましい。」


私がポツリと心の内を零すとお姉さまは目を瞬かせる。


「あら、わたくしはどちらかと言うとお父さま寄りよ。感覚では出来ないから理論から入るの。回復魔法はお母さまのものを何度も観察したから似ているかも知れないわね」

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