第7話 そのわがまま、痛々しいほどまっすぐで危険


王女はキョトンと目を瞬いていたが徐々に笑い出した。緊急事態にも関わらず春の木漏れ日のような穏やかで控えめな笑顔と笑い声に何故かほっとした。


「ふふ、ふふふ。君は随分と面白い物言いをするんだね。」


「お耳汚し失礼いたしましたわ。でも、本当に迷惑ですの。」


「はっきり言うね」


「まず、わたくしの家にお咎めが入りますわね。責任を取らさられるかもしれません。

次に殿下を思って今日の会を計画していた義兄さまとお姉さまの仲が悪くなりますわね。王家の問題に家を巻き込まれたと。

そして問題の対処に追われている間に他の貴族に狙われますわね。我が一族は持っているものが多いので。それに血筋で言うとまだ直系は女姉妹2人だけですわ、何に足元が救われるかわかったものではありません。

あと、殿下を気遣う人は目立たないですがいるのです。義兄さまは殿下が息抜きが出来るようにとこの会を考えたのです。殿下の自殺のためではありませんわ。」


そこまで私が言うとライア王女ははっとして少し眉毛を下げた。私は余りにも苛ついてしまったので言葉を続ける。

「そもそも、死にたいのならちゃんと準備してからになさいませ。幸にも不幸にもわたくし達は上に立つ者として産まれてきてしまったのですわ。命を捨てたいなら、巻き込まれる下の者が居なくなってからにしてくださいませ。」


「辛辣だな」


「当たり前ですわ。助かりたいのに何もしないで、主張すらしないで待ってるだけの方はわたくし大嫌いですの。わがままはちゃんと届くところに主張してどうすれば叶うのか考えなくてはいけないのは当たり前の事でしょう?」


「そうなのか」


王女殿下少しの間考えこみ何かを決心し、私に問いかけた。

「ぼ、僕のわがままは君に届くのか?」


しまった。断言してはいけないと言われている事をきかれてしまった。でも何故かこの時はこの方に応えなくてはいけないと自然に思えてしまった。

さらにライア王女は私に追い討ちをかける。


「僕は立場が弱いんだ。でも、もし誰かが守ってくれるのなら、隣に誰かが居てくれるのなら、初見で僕を見下さず


信念があって堂々としていて、


思いやりがあって家族思いで、


凛としていて強くてかっこいい、君がいい。

答えてくれ!僕のわがままは君に届くのか?例え、例え嘘でもいいから頷いてくれれば僕はもう少し希望を持って生きていける。」


絆されてしまった。

嘘でもいいなんてふざけんなと思ってしまった。

私を心配してくれる家族には後で謝ろう。

わたくしはニッと笑って王女に言った。


「届きましたわ、よく頑張りました。絶対に叶えますわよ。」


砂嵐の外側からお父さまが近づいて来るのが分かった。

「お父さま!わたくしも王女殿下も無事ですわ!今から輩を岩で拘束しますわね!」


王女はその様子をぼんやりと眺めていたが、わたくしが確認のため振り返ると控えめにへにゃりと微笑み聞こえるか聞こえないかくらいの小声でお礼を言った。


お父さまは危なげなく結界を発動させると、賊を1人残らず回収した。事後処理のため会はお開きとなった。


後日、ライア王女が実は王子だった事が発表された。何でも狩猟の会の騒動の時に王妃お抱えの医者で無く王様のお抱えの医者に診てもらったことにより発覚したらしい。王妃は病気療養中になっているが気弱な王様の事だ。すぐに元に戻るだろう。


ライア王女は名を改め、ライアン王子になった。

あの見た目で男の子とか聞いてない。思いっきり肩を掴ませちゃったけど非常事態だったし大丈夫…だよね…?


それと、あの約束どうにか叶えてあげないと。

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