第6話その環境、どろどろのグチャグチャにつき危険
王女殿下は他の王家の方々の挨拶の間、頼りなさげに王妃様の陰で小さくなっていたが付き添いのメイドに促されてそっと前に出て挨拶をはじめた。王妃様の鋭い視線、王太子の馬鹿にするような視線、王様の心配そうな視線を受けながら。
「パルム王国が第一王女、ライアですわ。今日はこのような素敵な会にお招きいただきありがとうございます。ぜひ皆様と親睦を深められればと思いますわ」
透き通ったアルトな声は微かに震え、王妃は微かに口の端を上に動かした。
全体での挨拶が終わり、私とライア王女の顔合わせのとき、王妃は目を愉悦に歪めて言い放った。
「ルイーズ様はまだ9つなのに堂々と挨拶が出来て素晴らしいわ。ライアなんて齢13にもなっておどおどしてしまっているのに。見習って欲しいものです。」
悲しげに見せる節目がちの表情はぴくりぴくりと喜びに震えているようで私は生まれて初めてゾッとする表情を見た気がした。ライア王女は使用人の陰に隠れて身を縮こませている。
とりあえず、王妃がライア王女を貶したのは伝わってきた。私はなんだかそれが気に入らなかった。
「お褒めいただき光栄ですわ。お母さまとお姉さまが何度も教えてくれたお陰でここまでかたちに出来ました。まだまだ足りぬところもあるのでこれからも精進してまいりますわ。」
これは後からお母さまにお叱りを受けるかもしれない。王様とお父さまと義兄さまは揃って青い顔をしていた。
王妃が私の言葉にそう、頑張ってくださいねと言うとそのまま解散の流れになった。狩猟が始まるまで皆思い思いの場所で談笑したり、弓矢の確認をしている。
ライア王女はあの双子にすら虐められていた。
わたくし?わたくしは1人寂しく弓矢を確認しておりましたわ。
男の子の方がライア王女の髪を引っ張り出したのでそろそろ止めに入らないと、と思い義兄さまとお姉さまの方を確認する。挨拶はだいたい終わったようだったので穏便にすむように願いつつそっと止めにいくことにした。
「ご歓談中失礼致しますわ。義兄さまが王女殿下とお話したいそうなので呼びにまいりました。」
ご歓談なんて状態では無かったが穏便に声をかける。双子はあからさまに嫌な顔をしたが私が王女に向けて話しかけているのが分かったのだろう、黙っていた。
今にもこぼれ落ちそうな涙を溜めた目がこちらを見る。ゆるく波打つふわふわの金の髪は引っ張られたせいで少し乱れていた。
「あ…」
「ご都合よろしければ義兄さまの元までエスコート致しますわ」
ライア王女を安心させる為に私は淡く微笑んで手を差し伸べた。
無事にライア王女をお姉さま達に保護してもらい狩猟の時間になったので森の中で手頃な獲物を探す。王女さまは大丈夫だろうか。女性だけになった待機場所では流石にお母さまやお姉さまでも王妃を止めきることは出来ないかも知れなかった。
「まあ、考えても仕方ないか」
人に会わないよう森の奥の方へと足を進め、後で野ウサギか野バトくらいの獲物でも狩ろうかと算段をつける。あと少しで見晴らしのいい崖の位置だ。少しの間景色でも見てのんびりしよう。そう思ってた時だった。
ライア王女が焦った様子で森の中を駆けていた。
急いで周りの気配を探ると何者か数人に追いかけられていた。
「王女殿下!!!」
慌ててライア王女を保護する。ぶっつけ本番だが砂嵐を展開した。私の魔法の特性上開けた場所の方が有利だ。警戒しながら崖の方まで移動する。
ここまで派手にやればお父さまはすぐに気づいてくれるだろう。
開けた場所まで来ると矢が飛んで来たので砂嵐で打ち落としていく。後ろが崖になっているのでライア王女には私の肩を掴んでもらった。
「まだ距離はありますが後ろは崖です。絶対に離さないでください。」
こちらを狙っている気配が判るようになった。相手の持っている弓矢を腕ごと岩で固めていく。意外にも魔法を使えそうな奴は居なかった。
砂嵐をすり抜けてきた矢は腕を盾にして振り払った。鱗が保護しきれなかった部分は少しだけ血が出た。まだまだ精度が足りないようだ。
しばらくすると矢が止む。まだ魔力に余裕はあるので砂嵐はこのままにしておこう。
ほっと息を吐く。王女にもそれは伝わったようだ。少し手の力が抜ける。そして言葉がこぼれ落ちた。
「僕はここで死ぬんじゃないのか」
「ふざけんじゃねえであそばせ!!迷惑ですわ!!!!!」
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