第4話 能力選びは人(?)それぞれ

「あ、起きた?」


 なんかまだ頭が痛い。少し頭に手を当てながら身を起こす。いつの間にかベッドの上で寝ていたみたい。


「まだ自分の中で知識が咀嚼できていない感じかな?でも、わかったとおもうけど能力をいくつか選んでほしいんだ。必要なら紙とペンもあるよ」


 ぱさっとメモ帳とペンを渡された。


「基本能力は生まれ持っている能力なので能力レベルを高くするから、メインの能力2つをかんがえておいてね」


 いやいや、常識を教えてくれるのはいいけど、展開が急すぎない?

 まぁ、確かに常識を教えてもらったから、なんとなく生きていけそうな感じはあるけどね。

 でも初期費用は必要で・・・


「そうそう、初回特典で5万ギアの現金は用意するから。そこは安心して」


 5万か。それだけあればギルドへの登録は可能だし、身分証明書も手に入るからなんとかなるかな?宿に数日は泊まれそうだし。とすると、必要なのは生活できて生き抜く能力の選定か。

 どうやって生きるべきか。


 わんこはまだベッドで寝てるけど、わんこの食事も多分私が用意しないとな。

 肉や骨を手に入れるとなると・・・うーん、冒険者か。最初はそうなりそう。

 私の中に入ってきたこの世界の常識をもう一度整理してみよう。




「少し聞いてもいいですか?」


 メモ帳にこの世界の情報を整理しているとなんだかわからないことばかりだ。


「なんだい?」


「この世界に魔素が満ちているから、よその世界から召喚をして魔素を吸ってもらおうとしている勢力と、この世界の異物を排除しようとしている勢力がいるってことなんですか?あと、異世界から人が訪れるのはよくあることなんですか?」


 よくわからない。

 よそから召喚して魔素を吸ってほしいのに、異物をずっと探知していて、見つかったらすぐに追い出されるって?

 異物を魔法で探知するから見つからないのであって、私みたいに違和感のある人間、普通に見ても見つかっちゃう気がする。


「君を召喚したのはこの世界で言う神の一柱だよ。癒やしの神だ。だけど異物を見つけて排除しようとしているのはこの世界そのものだ。どちらも人ではない。

 この世界は吹き出す魔素で徐々に変質している。魔素自体もこの世界の生み出したものだから、この世界は世界が変質しようともそれを気にすることはない。だが、魔素は大地を汚染し、地母神を苦しめている。だから、癒やしの神が召喚をしているんだよ。

 世界はただそこにあるだけで神でもなんでもないが、自分が生み出したもの以外がこの世界にいることを許していない。それでも神々は地母神を助けたくて様々な手を尽くしている。召喚はその一つだよ。

 君を呼んだのは癒やしの神だが、他の神も召喚は行っている。異世界人は今この世界に30人ぐらいいるかな。ただ、点在しているから接触することはまれだと思う。この世界はそれほど交通手段が発達していないからね」


 神とか世界か・・・この世界の基本知識を脳にたたき込まれたのに、それでもまだなんだかピンとこない。


「もう一つ。報酬のことですけど、能力は何でもいいんですか?」


 報酬。

 無理矢理この世界に連れてこられて、2年か3年誰も知る人のいない世界で生活するその報酬。

 もらった能力の中から一つ、何かしらの能力を持ち帰れる。ただし、元の世界に魔素がないので魔法の能力は持って帰っても有効活用できない。


「そうだね。有効活用できないけど魔法を選んだってかまわない。ただ、人気があるのは異言語理解、カリスマ、料理、裁縫みたいな生活能力だね」


 確かに異言語理解を持って帰れれば、通訳として活躍できるだろう。料理や裁縫だって役に立ちそうだし。カリスマというのは人の注目を集めて人を惹きつける能力みたいなので、政治家とか芸能人とかで活躍できそう。


「持って帰れるのは今選んだ能力に限るんですか?それともこの先二年間で習得した能力も含まれるんでしょうか?」


「今選ぶ能力の方がレベルが高くなりやすいというだけで、この世界で習得した能力でもかまわないよ」


 それなら、後から能力を追加すればいいんだよね。訓練すれば能力生えてくるみたいだし、器用貧乏なんて称号が知られているぐらいだし、新しい能力も結構獲得しやすいんだろう。


「できれば、魔法は複数選んでほしい。あと戦闘能力も一つは選んでほしい。あと生活能力も身につけた方がいいと思う。あとは好きに選べばいいよ。

 そうそう、一つだけプリセットされている能力がある。それは修復能力。君の体を今の時点に戻す能力だよ。下手に病気にかかって清浄を使われると、この世界にない君の体の様々な菌が死滅してしまう可能性がある。

 それを元通りの今の状態に戻す能力だよ。異世界人には必須の能力だね。

 そうそう。光魔法もとっておく方がいい。自分の身体には清浄じゃ無く修復を使って欲しいけど、水や食べ物はできるだけ清浄を使わないと君の体は水を飲んでも病気になってしまいそうだから」


 うーー。そうか。日本人って水あたりしそうだよね。日本の水はきれいだし。

 そうすると・・・


「修復は持っているとして、異言語理解、水魔法、光魔法、治癒魔法に生活魔法。料理、裁縫、植物知識、槍術、弓術、あと解体と・・・これで12だから、あと3つぐらい?時魔法に算術、あと一つ・・・」


 水魔法はまぁ定番だと思うけど、いつでも飲める水がほしいし、顔洗ったりもしたい。

 光魔法はお勧めされたとおり。浄化、清浄は必要そうだから。

 治癒魔法は怪我した時用に、生活魔法はこれがないとそもそも生きることが大変そう。

 料理や裁縫や異言語理解は元の世界に戻ったときにも使えそうだし、ちょっとした小金稼ぎに使えそう。

 植物知識は最初に後ろ盾のない冒険者が信頼を得る方法の一つに薬草採取があるようだから。討伐よりはハードルが低いよね。

槍術と弓術はやっぱり遠隔攻撃じゃないと怖いから。ただ、どちらも道具を必要とするから最初にすぐ使えるわけではなさそう。

最初にもらう5万ギヤでは宿泊費用と最低限のナイフや薬を含む冒険者キットの購入をすると安い槍が買えるかどうかかな。

ただ、初心者冒険者には武器のレンタルもあるみたいだから、なんとかなるだろう。

 解体は薬草を採りに行ったときに、罠を仕込んでおくとウサギぐらいは捕れそうらしいから、そのときのために。

 時魔法は生活魔法と合わせると時間停止のもの運びができるから重宝されそうだし、算術はお店で働くときに信頼されそう。


 このぐらいあればさすがに生活できる気がする。

 あと一つ・・・・


「15個というのは目安だから、多少増減してもかまわないよ。あとこの子が念話をとってもらいたいらしいよ」


 あ、トイプーちゃん起きてきたんだ。


「念話を使うとトイプーちゃんの言いたいことがわかるんですか?」


「すぐには無理かもしれないけど、なんとなくこんなことが言いたいんだろうな・・・ぐらいの感覚は低レベルでも感じ取れるようになるよ」


 まじか。すごいな、異世界。犬の気持ちがわかっちゃうんだ。


「わかりました。じゃあ、念話を追加で」


 私なりにいろいろ考えたけど、これで2年頑張れるといいな。

 農業とかも考えたんだけど、どうも米が樹に成っていたり(栗のからみたいなものと割ると中に米粒がぎっちり詰まっている)、植生や栽培方法が違っていそうで元の世界でいきそうにない。酪農も一緒。養蜂とかはなさそうだし、元の世界で生きる能力を選ぶのはなかなか難しかったけど、異言語理解があればなんとかなるかな?元の世界に戻って翻訳の仕事とかしてもいいかもしれない。あとは古文書の解読とか夢が広がるなぁ。


「君は大体決まったみたいだね。で、君は?」


「きゃんきゃんきゃん」


「え?」


 わんこが何かを言ったら、彼ははじめて驚いた顔をした。


「器用貧乏ってわかってる?」


「わん」


「わかっててそれ希望するんだ・・・へぇ」


 器用貧乏?

 たくさん能力を覚えるってことだよね。わんこ一体何を言ったんだろう。


「それもありかな。わかった。じゃあ、今決まっている能力を贈るよ。」


 そんな言葉とともに、空気が暖かくなって、自分の体が光っているのがわかる。

 能力に目覚めるとわずかに体が熱を帯びるらしい。それを一気に14個も手に入れるから発光しているんだと言うことは自分の中にある行き先の世界の常識でわかる。

 それはわかるんだけど、わんこ光り輝いてない??

 一体何を・・・


「この子ね。自分のとれる能力は全部欲しいっていったんだよ。」


「ぜんぶ!?」


 私の光はそろそろ消えそうだけど、わんこずっと輝いてる。


「その代わりに一つの能力がレベル5、二つの能力がレベル3、その三つ以外は全部レベル1になるけどね。」


 その三つの能力はまだ選んでいないらしい。


「こういうこと望むのは初めてではないけど、器用貧乏の話をし始めてからはずっとなかったな」


「器用貧乏ってそんなに生きにくいものなんですか?」


「普通ね、異世界人は最初に冒険者ギルドに登録するだろう?そのときに能力のレベルが問われるんだ。君ぐらいの数だとレベル5以上の能力が複数生まれるけど、この子みたいな取り方をするとレベル5の能力が一つしかない。だから、信用されなくて、いい仕事が回ってこないんだよ」


 この先の世界には獣人がいる。能力を持っているわんこは人化の能力を持たない獣人として扱われる。だから、この子も冒険者ギルドに登録はできるけど、よい仕事は得られないということになるみたい。


「あれ?全部の能力ってことは?」


「そうだね、この子、人化できるようになるね」


 能力人化はレベル1だと12時間限定で人に変身できるようになる能力。

 12時間って十分じゃない??


「あれ?人化できるなら、念話は・・」


「いるでしょ。夜中に緊急事態があったときに話せないってだめでしょ」


 あーそういうことか。確かにこの子しか私の味方はいないんだし。この子にも私しか頼る相手がいないんだもんね。人化の能力も最初から使えるのかわからないしね。

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