第39話 イキるって素晴らしい
「殺戮大帝だとぉっ!?」
ネーミングセンスはともかく、なんか凄そうな名前だな。俺はタマランチュラの秘霊とやらに備え身構える。
しかし、奴の魔力の高まりとは裏腹に何も起こらなかった。
「……おい、いつになったら秘霊とやらが出てくるんだ?」
「あれ? げ、ゲームのステータスが反映されてるんじゃないのか……?」
待てど暮らせど何も起こらず、俺は少しイラついていた。タマランチュラもこんなはずでは、と小首を傾げる。
何も起こらない理由は思お当たる節があるな。俺のアイテムボックスや箱庭でも再現まで時間がかかっていた。今回タマランチュラがゲームのステータスを反映させたとしても、スタートは俺のときと同じなのだろう。
つまり、秘霊どころかアイテムボックスの中は空っぽだろう。当然箱庭もないだろうし、新機能の秘霊なんて追いついてるわけないよな。
「残念だったな。どうやらこっちの世界じゃ秘霊はまだ未実装のようだぞ?」
「く、クソッ! だが武器だって俺はお前と同レベルの物を作ることに成功しているんだ。出てこいエレクトソード!」
奴は高々と手を上げる。そして何かを掴むような仕草。しかしその手に握られる物は何一つ無かった。
「なんにも起こらんな」
「な、なぜだ! 武器がなかったら勝てねぇじゃねぇかよ!」
ワナワナと掲げた手を震わせる。残念だったねタマランチュラ君。やっぱり君が勝てる要素はないみたいだ。
「これもあれだな。転生させたはいいがアップデートが追いついてないんだろ。俺も最初は何にも持ってなかったぞ」
「そ、そうなのか……!? なら魔法だ、魔法なら……! 喰らえ、必殺オメガフラッシャー!」
往生際の悪い奴め。残念ながらこの世界にフラッシュ系魔法なんて存在しないんだよ。
俺の予想通り、オメガフラッシャーは全く発動しなかった。敵味方自動識別の攻撃魔法じゃ最強なんだが、残念ながらこの世界にその魔法はないんだよな。
「な、なぜだ。なぜ発動しない!?」
「この世界にその魔法が存在しないからだよ。普通に考えて敵味方自動識別の全体魔法のなんてあるわけねーだろ」
この世界の経験が少ないタマランチュラにはわからんだろうな。ないもんはしょうがねーだろ。
「そ、そんな……!」
「じゃあそろそろ俺のターンだな」
俺は瞬時に間合いを詰め、俺様ソードを振るう。
「ひっ……!」
うん?
こいつ俺が剣を振ったら目ぇ瞑りやがったわ。人の姿になったら急に恐怖心でも湧いたか?
俺は難なくタマランチュラの右腕を斬り飛ばす。しかし実にあっけないな。
「いでぇぇぇぇよぉぉぉっっ!」
タマランチュラは斬られた腕を抱えながら地面を転げ回る。まぁそら腕を斬り飛ばされたら痛いわな。しかしそうか、こいつ、ステータスは高いが戦う覚悟なんてありゃしないわけね。
魔神姿のときは身体がデカいもんだから調子に乗れたが、それでもボコボコにされてたからな。今になって恐怖心が湧いてきたわけだ。
「はっ、お前人の姿で戦ったことなんてないもんな。戦いの恐ろしさにビビっちまったら終わりだぜ?」
「た、助け……!」
俺は転げ回るタマランチュラの顔を踏みつける。これで転げ回れないな。奴め涙と鼻水で顔ぐちゃぐちゃじゃねぇか。
「嫌だね。てめぇを生かしておく意味もねぇしお前が始めた殺し合いだぜ? 責任持って死ねよタコ」
てめぇで殺し合い始めておいて今頃何言ってんだよ。今のこいつは恐らく俺を殺せない。殺そうとしたら吐くか震えるんじゃねぇか?
ま、それが普通だ。喜べ、それだけお前がまともな人間ってことだよ。ただしこちらの世界じゃ通用しないがな。
「ひ、ひいいいっ!」
「残念だったな、人間的にはお前の方が優秀だったんだろうが、お前じゃこの世界に適応できねぇんだよ!」
俺は奴の身体を蹴りまくる。まさに蹴りたい放題だな。
「せっかくのチートも本人が腑抜けだとゴミ同然だな! 聞け、優秀な人間が生き残るんじゃねぇ。環境に適応できる人間が生き残るんだよ!」
そう、タマランチュラじゃこの世界には適応できねぇ。この世界でイキれるのは俺のような頭のネジが一本飛んでるような奴なんだよ!
そういやこいつリアルじゃ結婚してたんだったな。あっちの世界のリア充爆発しろや!
俺は手に持った剣を両手で掴みトドメの体制に入る。
「あばよ!」
そして俺はタマランチュラの首に剣を突き立てた。奴の首は胴体から離れコロンと転げ回る。そして首からおびただしい量の血がほとばしった。
「さすがにもう復活とかないよな? 本人がこれだし、さすがに見捨てるだろ」
タマランチュラ、お前のステータスはきっと高かったんだろう。だがいきなり殺し合いを経験するにはお前はマトモ過ぎたんだよ。
「ペッ!」
俺はタマランチュラの顔に唾を吐きかける。死体はここに捨てておこう。特に何の感慨もないしな。
それよりもサッサと王都ヨコーセの街を占領しないとな。俺は箱庭の扉を開き兵士達を呼び出す。そして王都ヨコーセへの蹂躙が始まった。これでこの戦争はシェルカラングの勝利だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます