第33話 モウカール占領
そして俺は堂々とモウカールの街の門前までやって来た。国境沿いだからもうちょい厳重かと思ったらそうでもなさそうだ。
「普通に商人が行き来してるな。宣戦布告したよな俺?」
街の門では普通に商人や一般の人達が並び街に入ろうとしていた。普通戦争中なら制限されると思うんだが。
「ええ。普通は宣戦布告するときに開戦場所と日時を伝えるのが国際的な慣例なんですけどしてませんよね?」
「……そういやしてないわ。それってやんなきゃダメなヤツ?」
「絶対のルールではないです。攻め入るルートなんてある程度限定されますし。まぁ、一週間しか経ってませんから伝わってない可能性もありますね。なんせ王都既に半壊してますし。少なくとも想定されていないルートへの伝達は遅れるでしょうね」
なるほど、王都が半壊したから伝達が遅れてる可能性もあるのか。それでも辺境伯の所には連絡行ってるだろ。行ってなかったら自己責任だな。
「だいたいですね。あんな無茶苦茶な要求してたら戦争に発展するのは当たり前です。前もって準備をしてないなら施政者失格でしょ。卑怯者呼ばわりされる謂れはありませんね」
「そういうもんなのか」
別に卑怯者呼ばわりは気にせんぞ。戦いにおいて卑怯は褒め言葉だからな。
「そうですよ。戦争の準備が一週間程度で終わるわけありませんよ。こうなるのがわかっていたから去年から準備をしてたんです」
「それで進軍が早かったのか」
「そういうことです。ですから遠慮なくやっちゃってください」
なら正々堂々と真正面から行かせてもらおうか。俺らしくな。
俺は普通に列に並び、順番を待つことにした。これこそ俺イズムよ!
「えーっと、なんで普通に列に並ぶんですか?」
「こっちの方が面白いからだ。まぁ見ていろ」
そして待つこと15分。俺の順番がやって来た。
「この街へ来た用件と身分証をお願いします」
定型文の如く門番が俺に質問をした。俺は腕を組んで堂々と答える。
「俺の名はジェノス。シェルカラングの外部国防顧問に就いている貴族だ。一週間前にこのクレレンマーに宣戦布告をしたからな。早速この街を侵略に来てやったから感謝しやがれ!」
しかし門番の反応は薄い。門番の一人が怪訝そうな顔で俺を見た。
「我が国に宣戦布告しただと!? そんな話は聞いてないぞ。確かに一週間前に黒龍が現れ、そのせいで王都ヨコーセが半壊したという噂はあるが……」
「どうする? とりあえずこいつが不審者なのは間違いないし、捕縛して色々吐かせるか」
門番二人が顔を見合わせた後、再度俺の方を向き眉を釣り上げる。
「そういうわけだ。ちょっと一緒に来てもらおうか」
門番の一人が俺の腕を掴む。そっちより宣戦布告の話が主要都市に行ってないのが謎なんだが。
「汚い手で触るなゴミカス」
ぶちゅっ。
俺は門番の目ん玉に人差し指を突っ込んでやった。硬いものを突き破った生暖かい感触が指に伝わる。さらにグリグリして感触を楽しんだ。
「ギャアアアアアッ!」
「うわーーーっ!」
絶叫をあげながら門番は慌てて俺から離れると、目を押さえながら地面を転げ回る。
「き、貴様ぁっ!」
「死ねゴミカス」
もう一人の門番が俺に槍向ける。しかしあんまりにもノロマだ。俺は腰の殺人ソードを抜くと瞬時に首を跳ねた。痛みを感じる間もなかっただろう。俺の優しさに感謝しやがれよ?
首のなくなった門番が倒れると、周りの奴等が悲鳴をあげる。騒ぎをいち早く察知したのか入口に兵士達が集まってきたようだ。しかし俺を警戒しているのか近寄る様子はない。
「何者だ貴様! このモウカールの街での狼藉はこの俺が許さんぞ」
そしてその兵士達の間から出てきたのはゴツい感じの兵士だ。強いかザコかで言えばザコだろうがな。
「お前の許可とか求めてねーし。それよりも宣戦布告したのに聞いてないとはどういうことだよ」
「宣戦布告だと!? いつの話だ」
「一週間前だよ。俺が黒龍と一緒にやって来て宣戦布告したんだが」
一週間じゃ伝わらないのか?
この世界の情報の伝達速度ってどの程度なのか俺知らねーんだよな。
「確かに一週間前、黒龍がやって来て街が半壊したという噂はある。貴様はその当事者間だというのか?」
「そうだよ。おっかしーな。そっちの国の将軍……、は俺が殺したんだっけ。国王も殺したから後知ってそうな奴は……」
と、そこで俺は気がついた。宣戦布告をしたはいいが、それを知ってるやつは全員黒龍のブレスで消し飛んだことに。
「わりぃわりぃ。そういや俺が宣戦布告したのを見てた奴等に生き残りはいないんだった。黒龍のブレスでみーんな死んじゃったんだっけ」
俺はポン、と1人納得して手を叩く。つまり、俺等のやってることは奇襲ということになるわけか。
「話が見えんぞ。とにかく無駄な抵抗は止めてお縄に付け。洗いざらい吐いてもらおうか」
「いや、イチイチ説明すんのめんどいから断る。せっかく来たんだし、このままモウカールを侵略させてもらうわ」
あーもう、めんどくせぇ。戦争になったことに国民が気づいてないとは思ってなかったわ。もうさっさと兵士どもをぶっ殺して領主を捕らえて占領しよう。
「総員あの不審者を捕縛せよ! とりあえず生きていればいい」
「うぜぇな。マジックアロー!」
兵士どもが動き始める。俺はサクッと大量のマジックアローを生み出し発射。魔法の矢は外壁や地面だけでなく兵士どもの肉体を貫く。数が多いから精密なコントロールはしてないが、隊長格の奴は狙っていない。
「ギャアアアアアッ!」
「ぐへぇっ!」
門の内側では多くの兵士どもが身体を貫かれ、悲鳴と血反吐を蒔き散らす。壁もけたたましい音を立てて崩れ落ち、地面に突き刺さった魔法の矢は砂煙をあげていった。
こうなればもう敵の死体がバリケードになってくれる。せっかくだし地獄を見せてやるか。
「スタンミスト!」
俺は兵士どものいた周辺に紫色の霧を生み出す。この霧は毒性があり、吸い込んだ者の神経を麻痺させるやつだ。そこまで強力な麻痺じゃないが動けなくさせるには十分だろう。
そして毒の回った奴らは次々と膝をつき倒れていく。気丈にも四つん這いになって堪えているやつもいたが大した問題じゃあない。
「あー、なんかあまりイキり散らすことができんかったな。まぁいいか、待機してる奴らにも手柄を立てさせんとな」
「えー、ジェノスさんまだ僕血を見足りないんですけど」
戦闘をあっさり終わらせたことにキールが不満を漏らす。俺もイキリ足りないんだから我慢しろや。
「てめぇのヤバい嗜好とか知るか。さっさとを街を占領させるぞ。箱庭展開、出てこい野郎ども!」
俺は箱庭を開き、中で待機していた兵士達を開放する。箱庭の扉からはわらわらと多くのを兵士達が姿を現した。そして一番最初に出てきたのは確か部隊長だ。
「凄い、街に着いているぞ!」
「街に着いたぞ。総員占領を開始せよ」
「ハッ!」
兵士達は俺が命令を下すまでもなく動き始める。事前に打ち合わせはしてあったからな。戦争の準備も整っていない街なんざ突如押し寄せた大軍を跳ね除ける力なんかないだろう。
事実、その日の内にモウカールの領主は捕縛された。そしてモウカールはシェルカラング軍により占領されたのである。
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