第34話 完成していた箱庭

 モウカール占領から二週間が経過した。辺境伯領を攻めた部隊との合流待ちだったためその間はとことん暇だ。そんなわけで俺はルルナちゃんを連れて来て街一番の宿屋でイチャコラしながら過ごしていた。


 クレレンマー滅亡後の占領都市の扱いについては領土として発展させることになっている。だから占領中での都民への虐殺や強奪、強姦については行わないことを宣言してあった。ただし、反乱を起こした際はその限りではないと警告してある。


 それゆえ占領後の徴発は確かに行うが最低限に留め、ある程度のお金は支払ってある。あまり民衆に禍根を残すとその後の統治が上手くいかないからだ。


 どうせ支払った分はきっちりクレレンマーの国庫から頂くので問題はない。






「ジェノス外部顧問、明日にはラングレー王子殿下の部隊が合流できるそうです」


 今日は会議室に幹部連中が集まり会議を行っていた。辺境伯領に侵攻していた第一王子の部隊から先触れがあったためだ。


「早いのか遅いのかわからんが明日合流か」


 まぁ多分早いんだろうな。第一王子が出陣しているのは勝ち戦だからだろう。鉄巨人3体もくれてやったんだからそれで負けたら無能過ぎるぞ。


「ジェノス外部顧問。これは相当な進軍ペースと思われます。報告に依りますとラングレー王子殿下自らオルターナを駆り、アーシ=クセイダー辺境伯軍を撃破。戦闘は1日で終わり、アーシ=クセイダー辺境伯を処刑し街を占領。一週間滞在の後モウカールを目指したとのことです」

「鉄巨人は役に立ったようだな。ま、あれがあればどこと戦争しても負けるとは思えんが」


 将軍は愉快そうに俺に報告する。他の幹部連中も余裕の笑みを浮かべ既に戦勝ムードが漂っていた。


「ええ、精強と名高いアーシ=クセイダー辺境伯を容易く撃ち破ったのです。今後は補給の後第一王子が部隊を率い王都ヨコーセに攻め入るわけですが楽勝でしょうな。国王は既に死に、街や城は既に半壊。負ける要素がありません」


 もうこれ俺が付いていく必要なくね?


「ジェノスさん念の為最後まで付き合ってくださいね? 世の中何が起こるかわからないんですから」

「へいへい。もうどうせ楽勝でしょ。それでも何かあったら任せておけ」


 キールのやつも心配性なのか最後まで俺にいろと言う。いや、こいつのことだから眼の前で血が見たいだけな気もするぞ。


「ええ、頼りにしてますよ。王都ヨコーセには僕も行きますからね。ジェノスさんは僕の護衛をお願いします」

「おう任せておけ」


 俺は特に考えもなく安請け合いする。これ以上なにもないだろう。



    *    *    *



 そして後日、予定通りラングレー第一王子率いる本隊と合流。そのまま一泊した後王都ヨコーセへ向かうことになった。


 そのまま進軍すれば5日程の道程だ。しかし俺達の軍にはキール考案の箱庭を用いた移動方法がある。それを利用すればヨコーセまで僅か数時間だ。


「よし、ジェノスよ。箱庭を開けてもらおうか」

「はい殿下。箱庭開放!」


 俺はラングレー殿下の命を受けスキル箱庭を開放する。俺の眼の前に大きな扉が現れ、そして開かれた。


 扉から見える景色は何もなければただ広い土地があるに過ぎない。しかしいつの間にか扉の向こうには多くの建物が出来上がっており、住民までいたのだ。


「ジェノスよ。確か箱庭の中は空だったと聞いていたんだが……」

「そのはずなんですが……」


 俺と殿下は箱庭の中に入り確認する。間違いない。箱庭の中の街が再現されてるわこれ。そういやイヴェルが再現してくれるという話だったっけ。ついに箱庭の再現が終わったということか。


「殿下。どうやら箱庭の中身が完成したようです。この箱庭の王は俺です。全ての住民は俺の言う事を聞くし、全ての施設を利用できるはずです。案内人がいるはずですから案内させましょう」


 俺は殿下に簡単に説明した。施設については色々ヤバいなのも多いから隠しておきたいところだな。オリハルコンやアダマンタイトの鉱山とか魔法薬、武具の製造所などがある。魔法薬に関してはエリクサーもあるし武具もオリハルコン製やアダマンタイト製が普通にあるのだ。


 そして鉄巨人の倉庫に製造所、俺の私兵達もいるだろう。こんなもん見せるわけにはいかんよな。


「お呼びですかおにぃちゃん」


 不意に幼女の声がした。しかもおにぃちゃんとは恐らく俺のことだ。声のした方を向くとメイド服を着た10歳くらいの幼女が立っている。そして俺はこの幼女に見覚えがあった。


 俺様最強伝説というゲームには箱庭タウンというものがあり、その案内人を何種類からか選ぶことができる。当然俺が選んだのはロリっ子でメイド服を着た美少女だ。名前はアンナ。そして主人公を呼ぶときの設定を「おにぃちゃん」にしてあるのだ。


「アンナか。それにしても良くできてんな。これ生身の人間なのか?」

「私人間じゃないよ。魔法生命体だと思ってくれればいいかな」

「そうなのか。今から箱庭に6000人くらい入れたいんだが場所はあるか?」

「闘技場なら余裕で入るよ」


 闘技場か。まぁ機能を使わなければ問題ないだろう。疑似戦闘体験システムとかあるからな。あれは高ランクモンスターとの模擬戦ができるシステムだが、負けても死なないという素敵仕様だ。訓練に使えるんだろうが、国王とか絶対欲しがるよな……。


「そうか。なら闘技場と一般施設のみ開放を許可する。他の施設は極力見せないようにな?」

「わかってるよ、おにぃちゃん」


 俺はこっそりアンナに伝えると、わかってますよとばかりににこーっと微笑む。できた娘でよかったわ。


「ジェノス、部隊を全員入れたいがかまわんか?」


 俺がアンナとコソコソ話していると、しびれを切らしたのか殿下が急かす。


「殿下、大人数ですので闘技場へご案内致します。一度箱庭から出て繋ぎ直しますので退出をお願いします」

「繋ぎ直すとは?」


 俺の行っている意味が理解できず殿下が質問する。ま、そりゃわからんよな。


「箱庭の入口の場所は俺が任意に選べるんですよ。ですので出入口の場所を変更致します」

「そんなこともできるのか。それにしてもこの間までなにもなかったのに街ができているとはな。経済活動などの実情を一度調査する必要があるな」


 いや、そんなんされたら絶対寄越せとか言ってくるだろ。ここはてめぇの領土じゃねぇんだがな?


 俺は殿下のほくそ笑む態度に眉をヒクヒクさせる。箱庭が完成したのはいいがタイミング悪かったなクソッ。


「あのー、箱庭では経済活動は行われていません。住民は全て魔法生命体ですので与えられた役割をこなすだけの存在なんです。ですので税金を取るというのは無理だと思いますよ」


 衝撃の事実。俺も知らんかったわ。でも確かにいきなり人を生み出して配置とか無理あるよな。


「そうなのか? だが調査をしないわけにはいかんぞ」

「殿下。この街自体が俺のスキルなのわかってます? シェルカラングの領土じゃないんですよ。気に入らないなら鉄巨人は回収してシェルカラングの貴族の地位も捨てますが」


 もう俺はいい加減このクソ殿下に腹が立ってきた。イライラを隠さず睨みつけるようにクソに警告する。


「ジェノス、その態度は不敬だろう。この俺に歯向かう気か? 貴様も貴族なら王子の言うことは聞くもんだ。せっかく得た貴族の地位を捨てる気か?」

「やれやれだ。じゃあ俺との仲は決裂ってことでいいですね? これから俺はシェルカラングの敵に回りますがそれで構わない、ということですよね」


 クソは何を勘違いしているのか俺に対して上から目線だ。俺はイラつきながら髪を掻きむしり、荒っぽく最終警告をした。マジでめんどくせーな。

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