第32話 俺、別働隊

「こいつは爽快だ! 空も飛べるのか」


 オルターナに憑依した国王は空を飛び回りながらぶんぶん槍を振り回す。なかなか様になってるなぁ。国王だけに武の心得があるのかもしれん。


「なんと軽快な動きか。あの大きさの槍であればドラゴンも倒せそうですな」

「一つの国くらいは滅ぼせるぞ。なんせオリハルコン製だから実質倒すのは無理だろ」


 俺なら勝てるけど多分黒龍でも勝てんだろうな。ちょっとサービスし過ぎたかもしれん。


「どれ、この雷球というものを使ってみることにしようか」


 国王が雷球を発動させる。するとオルターナの周りに直径1メートルくらいの電気を帯びた球が10個生まれた。そしてそれを地面に着弾させる。


 激しい轟音とともに大地は爆ぜ、土砂を拭き上げた。そしてクレーターがいくつも出来上がる。これかなりヤバいな。


「す、凄まじい威力だ! これがあれば無敵じゃないですか」

「世界征服できそうだな」


 護衛達がその威力に高揚し、歓声をあげる。まぁ、うちの国が世界征服する分には俺が困ることはない。多分。


「素晴らしいぞジェノスよ! 此度の献上の品真に気に入った。クレレンマー滅亡後の褒美は期待していいぞ」


 国王は楽しそうにオルターナを駆り走り回る。なかなかの機動性だ。こいつがいれば災厄の魔神とやらも倒せるんじゃなかろうか?


 そんなこんなで小一時間程国王はオルターナで戯れていた。そりゃこんな兵器に乗り移れたら楽しくて仕方がないだろうよ。





 その後城に戻った俺は国王に約束の残り2体を献上した。オルターナに性能こそ大幅に劣るが叙詩級エピッククラスの鉄巨人だ。多分ベヒーモス程度ならぶち殺せると思うぞ。 


 今回のクレレンマー侵攻にはこれら鉄巨人3体が運用される。それに魔導砲も百本だ。負ける道理がないだろう。今度の侵攻作戦は俺も参加する。ま、ほとんど見ているだけになるだろうがな。



    *   *   *



「いやー、しかしなんで俺だけ別行動になるんだろうな」


 宣戦布告から一週間経った。厄介だと言われた辺境伯領以外にもう一つクレレンマーへ入るルートがある。ただそこを通るには危険な魔物がウヨウヨいるという死の山を越えにゃならんかった。ま、俺にとっちゃ危険でもなんでもないからそれはいいか。


「それはジェノスさんの場合一人で十分だからですよ」


 俺のボヤキにキールが答える。キールは俺が用意した二足歩行型魔導キャリアウォーカーに乗っていた。こいつも俺様最強伝説のアイテムで、初期に手に入る兵装の一つだ。


 魔導ビームと簡易バリアを搭載しており、ここらの魔物から身を守るためにくれてやったのだ。で、なんでまたこいつが一緒なのかっつーとこいつこれでも第二王子なんだとよ。これでも有能な魔導士らしい。


「そりゃそうだけどな。お前も安全に俺の箱庭にいりゃ良かったんじゃね?」


 俺の箱庭スキルは今のところ中にはな~んにもない。当然だ、何にも作ってないんだからな。ま、そのうちイヴェルが再現してくれるんだろうがな。


 しかし中には何にもなくても人が入ることはできるんだよな。しかも箱庭への扉は俺が自由に設置できる。つまり俺の箱庭の中に兵を集め、俺がクレレンマー領に入ってから箱庭の扉を開けば一度に大量の兵士達を運搬できるわけである。


 これを思いついたのが他ならぬこの第二王子のキールだ。こいつなかなか頭がいいようだ。


「中にいても退屈じゃないですか。それよりジェノスさんが魔物をぶっ殺してるところを見る方が楽しいです」

「そ、そうなのか」


 そういやこいつ黒龍のブレスの威力に感動してたよな。血を見るのが大好きなのかもしれん。


「そんなことよりもう死の山も抜けちゃいそうですね。あまり魔物が寄り付かなくて残念でした」


 徒歩なら2日はかかると言われていたこの山も俺とこのキャリアウォーカーなら僅か3時間だ。魔物との戦闘が僅か2回だけだったのが大きい。


「倒すの俺なんだが……」

「だからいいんじゃないですかぁ。ジェノスさんの敵を蹂躙するときの笑顔はとても素敵ですよ?」


 キールがニコニコと答える。いや、男にそんな褒め方されても嬉しくねぇよ。


「そうか。それで、ここを越えてしばらく行けば大都市に出るんだったか?」

「ええ。商業都市モウカールですね。そこを占領してしまいたいんですよ。そしたらクレレンマーの王都までのいい中継基地になりますし」

「とりあえずそのモウカールに着いたら領主邸に行って箱庭で待ってる兵士達を開放すればいいんだな」


 外からではなく中から攻められるとは向こうも思わんだろうな。こいつはとんでもない奇襲になりそうだ。


「ええ。わざわざ街の外から攻めなくてもよくないですか? そのまま領主の首を跳ねて降伏を迫ればいいんですよ。応じなきゃまとめてぶっ殺すだけです」


 だからなんでそんな恍惚の表情を浮かべてんだよ。こいつ本当に殺戮が大好きなのかもしれん。将来が楽しみだわ。


「ま、戦争なんて勝てばいいんだから仕方ないな」


 そう、なんだかんだで戦争なんざ勝ったほうが正義だからな。よし、そろそろ死の山も抜ける。山道を降り、平原に至る道に辿り着いた。ここからすでに街の外観が小さく見えているな。


「あそこが商業都市モウカールです。見張りの兵に見つからずに侵入できますか?」

「無理だな。面倒くさいしまとめて吹っ飛ばして正面突破しようぜ」


 できんこともないが性に合わん。それに何より、イキれないのはつまらん。


「沢山ぶっ殺すわけですね。わかりした、ならなるべく沢山の血が流れる方法でお願いします。凄惨な方が相手の戦意を殺げますので」


 キール、めっちゃニヤついてるんだけど楽しんでるのか?

 凄惨な方がいいといいうのはこいつの趣味に違いない。というかそうとしか思えないんだが。


 言っておくが俺は必要なら人を殺すのに躊躇いはないが、好き好んで殺すわけじゃない。なぜなら死んだらそいつにイキれないからだ。


 イキることはすなわち自分がそいつより圧倒的に優位であることを示し悦に入ることができる、という自己承認欲求を満たす高尚な行為である。


 相手をぶっ殺し、なおかつ俺が気持ちよくイキるために必要なこと。そのためにベターな方法を取ることにしようか。


「任せろ。街の奴等に歯向かう気持ちを失くさせ、素直にさせてやんよ」


 まぁあれだ。亡くなった奴らには尊い犠牲という美しい言葉をプレゼントしてやることにしよう。

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