第15話 黒龍

 決闘は1週間後ということで合意したんだが、俺としてはさっさとロリペド族の解放をしたかったんだがな。


 1週間後ということはそれまで暇なのがな。いや待てよ?

 ルルナちゃんを連れて来て是非とも俺の雄姿を見てもらいたいな。そうすればきっと俺の強さに惚れ直す。うん、完璧じゃないか。その間に夜のお相手もお願いしたいしな。


 俺は早速リンドンに戻る。道はだいたいわかったからな。俺の足で走れば片道2時間と超早い。体感40キロってとこだろうな。


 リンドンに戻ると俺は一旦冒険者ギルドへ立ち寄った。なにやらすんごい騒がしいんだが。


「えらく騒がしいな。何かあったか?」

「ジェノス様、昨夜このリンドンの上を黒龍が通り過ぎて行ったんですが、見てないのですか?」


 受け付け嬢に話を聞くと少しムッとした表情で説明された。単に焦ってるだけなんだろうが態度悪くねーか?


「昨日は王都に泊まったからな。夜はここに居なかったんだよ。で、黒龍が通り過ぎるとなんかヤバいのか?」

「黒龍は街を襲う場合前日に一度上空を通り過ぎると言われているんです。つまり、黒龍はリンドンを破壊するつもりなんですよ」


 なんでわざわざ一度通り過ぎるのか意味不明なんだが。偵察のつもりか?


「なんで黒龍がリンドンを破壊せにゃならんのだ。誰かなんかやったの?」

「それがですね……。カッパーギ商会の依頼で黒龍の鱗採取の依頼があったんです。それだけなら黒龍の巣で鱗を拾えば良かっただけなんですけどね。こともあろうに卵を盗んだら追いかけられて、その卵を割っちゃったらしいんです。それでその冒険者がリンドンに逃げて来たせいでリンドンが標的になったようです」


 龍の卵割ったのか。そら怒るわ。もうその冒険者差し出したくらいじゃ収まりつかんだろうな。


「とばっちりかよ!」

「とばっちりです。ハッキリ言って洒落になりませんけど」


 受け付け嬢は非常にイラついてるみたいだな。俺を見るときとなんか目を細めてるしな。そういやこいつ俺が登録したときの受け付け嬢か。なんかあれ以来俺を見る目が汚物を見るような目なんだよなこいつ。


 他のやつには笑顔振り撒いてるくせに俺のときだけはニコリともしやがらねぇもんな。


「そっか。ま、頑張れや。俺はルルナちゃんを迎えに来ただけだしな」


 好奇心で聞いただけだしな。それにこの受け付け嬢には俺がやるなんて言いたくねぇし。


「ジェノスさんなら勝てるんじゃないですか? というよりジェノスさん以外じゃ絶対勝てません! ギルド権限により冒険者ジェノスには黒龍討伐を命じます。従わない場合はギルド証剥奪しますからね」


 受け付け嬢はやはり俺を蔑むような目でブスッとしたまま命令しやがる。こいつの頼みなら聞く必要ないな。


「あ、きったねー! そういう態度なら別にいいぜ。ギルド証要らねーから返すな。隣の国でも行って冒険者登録し直せば済む話だし。登録情報なんて全国で共有されてるわけないからな」


 もうこんなクソギルド知らねーし。ルルナちゃんを連れ出したらもうこの街と関わる必要もないだろう。黒龍とやらのとばっちりで滅んどけ。


「え、助けてくれないんですか!?」

「それが他人にモノを頼む態度かよ。俺はルルナちゃんさえ無事ならこの街がどうなろうと知ったこっちゃないね」


 俺が断ると受け付け嬢の顔色が変わった。もしかしてあれで受けてもらえると思ってたのか?


「どうしたら助けてくれますか?」

「全裸になって土下座して俺の靴を舐めて懇願しろ」


 俺は絶対無理な要求を突きつける。遠回しにやらねーと言ってるだけだ。


「それ、本気で言ってます?」

「いや、冗談だが? 俺はお前が気に入らない。登録のときから俺を蔑むような目で見やがって。ギルドマスターをボコボコにしたのを根に持ってんのか?」


 もう知らねーし、言いたいこと言ってやるかな。後悔しながら街とともに死んでいけよ。


「それは……、申し訳ありませんでした。怖かったものですからつい……」

「は? 怖かった? お前の目つきは怖がってるんじゃねぇ。蔑んでんだよ。じゃーな、せいぜい頑張れや。ほれ」


 俺はギルド証を取り外し、受け付け嬢の眼の前に放り投げてやった。すると受け付け嬢は半泣きで立ち上がる。


 どーでもいいけど、俺注目の的になってるんだけどな。俺を非難する声もチラホラ聞こえているし。


「ま、待って下さい! お願いします、街のために力を貸してください。私に出来ることならなんでもしますから。ほら私こう見えても出るとこは出てますし」


 そして俺の手首を掴んで呼び止めると頭を下げた。そして上目遣いで俺を見上げると胸を強調する。


「お前に頼みたいことなんてねぇ。お前やっぱり俺のこと馬鹿にしてるよな。身体を餌にすればホイホイ言う事聞くと思ってんだろ? あーむかつくわ。スッゲームカついたわ!」


 俺は不愉快を露わにして受け付け嬢を睨みつけた。


「そ、そんな……! じゃあどうしたらいいんですか。どうしたらこの街のために戦ってくれんですか。黒龍なんて危険等級特級ですよ!? 今日にも来るはずなのに避難なんて間に合いませんよ?」

「あの、私からもお願いします。危険等級特級なんて一級を軽々倒せるジェノスさんしか勝てる人がいないんですよ」


 すると他の受け付け嬢まで加勢してきやがった。これじゃ俺が悪者みたいじゃねぇかよ。なんか周りも俺に非難の視線を向けてるし。こうなったのも全部黒龍のせいだな。


「知るかよ苛つくなぁ。あーくそ、むしゃくしゃする! ちょっとそのへんのモンスターに八つ当たりして来るから手ぇ離せよ。俺の八つ当たりを受け止められるくらいのモンスターどっかにいねーかなー! 雑魚じゃ憂さばらしにもなりゃしねぇわ」

「ジェノスさん……、ありがとうございます!」


 受け付け嬢が揃って頭を下げる。誰も黒龍を退治するなんて言ってねぇけど?


「あ? 何勘違いしてんだよ。俺は憂さばらしがしたいだけだ。ベヒーモス程度じゃ物足りないんだから仕方ねぇだろ」


 幸いベヒーモスより強いモンスターが現れるらしいからな。そいつには存分に八つ当たりさせてもらうとしよう。


「よっ! カッコいいぜ旦那」

「ジェーノース! ジェーノース!」


 周りも何を勘違いしたのか俺を持ち上げやがる。ガラじゃねぇんだがな。


 俺は少し顔を赤くしながらギルドの建物を出た。


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