第9話 道標

「ぢくしょ~、ルルナちゃーーーん!」


 俺は真っ昼間から酒を飲んでいた。冒険者ギルドで飲んでるから周りの視線が痛いが知ったことか。


「ルルナちゃんってもしかして銀の猫亭のロリペド族の子のことか?」

「……そうだけど誰だよお前」


 俺に話しかけてきたのはなんとも軽薄そうな優男だった。見た感じ戦士系か。そういや俺ってこっちの世界でも友達いねぇな……。その優男には仲間がいるようで後ろにも二人いる。


「俺か? 俺はアレク。これでも第4位冒険者だよ。後ろのは俺のパーティメンバーだ。よろしくな、期待の新人君」

「そりゃどうも。よかったらお前らも飲むか? 少し付き合えよ」


 俺には愚痴をこぼせる仲間がいない。だから誰でもいいから聞いて欲しかったってのもある。だからだろう、俺は自然と初対面の相手に酒を勧めてしまった。


「奢りか?」

「当たり前だろ。好きなの頼めよ、一緒に飲もうぜ」

「気前がいいな。遠慮なくゴチになるとするか。俺はボガード、よろしくな」

「私はラーナよ。よろしくね」


 なるほど、こっちの熊みたいなマッチョがボガードでそっちのお色気魔術師がラーナか。誰かと一緒に酒を飲むなんて何年ぶりよ?


 3人は席に着くと早速エールと何品かの料理を頼んだ。そしてエールが3人に行き渡るとジョッキを掲げ乾杯する。


「今回はジェノスを励ます会だな。じゃあジェノスに新しい出会いがあることを祈って乾杯!」

「「「かんぱ~い」」」


 アレクが音頭を取り、乾杯する。つか新しい出会い前提かよ。俺としてはルルナちゃんを振り向かせたいんだが。


「しかしお前、ロリペド族に惚れるとはツイてないなぁ。はっきり言って絶対報われないからな?」


 アレクは早速俺の振られ話を肴に飲み始めた。どうやらこいつは知っているってことか。


「なんでだよ。銀の猫亭のマスターもそんなようなこと言ってたけどさ、ロリペド族ってなんなんだ?」

「俺もそこまで詳しいわけじゃねぇけどな、ロリペド族ってのは非常に短命で25年生きられるかどうからしいぞ」

「まじかよ!」


 俺の疑問に答えたのはボガードだ。しかし25年とは随分短命だな。確かにそれだと普通の幸せは望めないのかもしれない。


「本当よ。まぁハッキリ言って胸糞悪い話なんだけどねぇ、その短命の理由は奴隷紋にあるのよ」

「奴隷紋……。そういやルルナちゃんの背中に紋様があったがそれか」


 ルルナちゃんの小さな背中には紋様がある。魔法で刻まれたとは聞いていたがあれか。


「そうよ。ロリペド族は高い魔力を持っているからね。その魔力を抑え、流用して自壊させるのと身体を売ることを強制させる効果があるのよ。その仕組みを作ったのが愛の神の使徒様ってんだからお笑い草よね」

「愛の神の使徒……?」


 早速抹殺ターゲットの手がかりゲットとはついてるな。ルルナちゃんをそんな目に遭わせた報いを受けさせてやるか。


「そうよ。もう100年以上生きている化け物ね。そいつ幼女趣味らしくてね、淫魔を生け捕りにしてそういう奴隷を作り出したのよ。寿命を短くしたのは年食ったババアはいらないかららしいわ。寿命が短いから取っ替え引っ替えできるってのもあるんじゃないかしら?」


 俺以上のクズいたぁぁぁっ!

 なんだそのロリペド嗜好は。25過ぎたらババアとか頭おかしいだろ。


「詳しいなラーナは。俺はそこまで知らなかったぞ」


 ボガードは知らなかったのか。てことは一部界隈しか知らない話ってことね。


「魔導士の研究者筋の間じゃ有名な話なのよこれ。しかもこの奴隷紋は魔力の強い人間にも使えるらしいのよね」

「クズだなそいつは……。てことはその奴隷紋を消せれば寿命は伸びるってことなのか」

「理論上はそうなるわね。肉体の成長を12歳で無理矢理止めてるから、それがどう影響してるか知らないけどね」


 なるほど、つまりその奴隷紋を消せばルルナちゃんを救えるってことか。しかし肉体の成長を12歳で無理矢理止めているなら本当はまだ成長するってことになるよな。その愛の神の使徒とやらが自分の性的嗜好を満たすために奴隷紋を作り上げるとは執念を感じるぞ。


 だが問題はそれを法律で保護させているって点だな。つまりその使徒はこの国の権力者そのものか、権力者に太いパイプを持っているってことになる。そいつぶっ殺したいけどどう考えてもアウトだよな?


「なぁ、話替わるけど貴族になるにはどうしたらいい?」

「貴族に? お前この話聞いてもまだルルナちゃん諦めてないのか?」

「話を聞いたからこそだよ。俺ならルルナちゃんを救える。貴族になってルルナちゃんを身請けし、その奴隷紋を消してしまえばいいだけだからな」


 恐らくその奴隷紋は呪いの類だろう。もう一度ルルナちゃんに会い、奴隷紋を詳しく鑑定すれば解決策がわかるはずだ。


「おま、簡単に言うけど普通の奴隷紋でさえ消せるのは限られた聖職者くらいだぞ。ロリペド族の奴隷紋は使徒が生み出した特殊な奴隷紋らしいから消したやつなんていないんじゃないか?」

「そうね。もしそれができるならロリペド族はこぞってあなたの下に集まるわ。そして奴隷紋を消してくださいとお願いに来るでしょうね。私がロリペド族なら奴隷紋を消してもらったらその使徒を殺しに行くわ」


 ラーナはニヤーっと口角を釣り上げる。こえーわ!


「こえーな」

「あら当然じゃない。使徒がいる限りロリペド族に安寧なんてないのよ。あの使徒は幼女を愛でることに生命をかけているらしいからね。ロリペド族の供給がなくなるなんて許さないでしょ」

「一人くらいならいいだろ?」


 許さないなら死んでももらうだけだ。許してもその後に死んでもらうけどな。問題はどうバレずに殺すかだな。


「さぁ? その使徒が許すかどうかなんて私にはわからないわよ」

「そりゃごもっともだ。んで貴族になる方法だったな。何らかの形で国のに多大な貢献をすればいいのさ。戦争で手柄を立てるとか、特級危険指定モンスターを倒して国王に献上するとかな。一応金で爵位も買えるらしいけど法服貴族の準男爵がせいぜいだろうな。ロリペド族を身請けするだけなら十分かもしれんが」

「いくら積めばいいんだ?」

「知らん。法務局に聞いてくれ」


 だが道は見えた。先ずはもう一度ルルナちゃんに会うんだ。救える方法があるなら試さないとな。そのためにも先ずは店主と話を付ける必要がある。俺はやってやるぞ。必ずルルナちゃんを幸せにしてみせるんだ!

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