愛おしい人のために
第7話 拒絶
俺は今日も大量の金貨を入手し銀の猫亭へと向かう。こないだ小耳に挟んだんだが、娼婦というのは身請けもできるらしい。つまり大金を出せば娶ることもできるということだ。ルルナ程のいい女なら相当な額が必要だろうが関係ない。たとえ金貨一万枚だろうと払ってやる。
俺は銀の猫亭に入ると早速ルルナちゃんを指名する。ところが彼女は今日は休みだという。なんてこった!
「すまねぇな。確かジェノスだったな。ルルナをそんなに気に入ったのか?」
それを教えてくれたのはこの店の支配人ドルーズだ。なかなか強面のおっさんで見た目はほとんどマフィアだな。
「ああ。身請けしたいと思ってるんだが彼女はいくらだ? 金貨一万か? それとも二万か?」
いくらでも払ってやるぜと俺は強気の発言をしてやった。だがドルーズの答えは予想外のものだった。
「悪いが彼女は身請けできん。ルルナに限らずロリペド族の身請けは法律で禁じられてるんだよ。お前、この国の人間じゃないのか?」
「まぁそうだな。色々事情があってな。そんなことよりなんで駄目なんだよ。納得いかねーぞ」
はぁ?
法律で禁じられているってなんだよ。愛玩種族なら別にいいじゃねぇか。
「そうか、知らねぇのか。悪いことは言わん、ロリペド族はやめておけ。お前の気持ちは絶対に報われることはないと断言してやろう。それよりどうだ? 他にも良い子はたくさんいるぞ。なんならこの店のナンバーワンを紹介してやる」
「いやいいよ。また来る」
「待て。お前、もしかしてルルナが初めての相手だったんじゃねぇのか?」
ぎくぅっ!
「な、なななな、なにを言っているのかワカンナイナー。そんなわけないじゃないかー」
まともに動揺した俺にドルーズはため息をつく。そして投げやり気味に忠告してきた。
「図星か。はっきり言ってやろう。お前の感情は一種の刷り込みだ。たとえルルナじゃなくても同じ感情を抱いただろうよ。お前女遊び向いてねぇぞ」
「うるせーよ。金ならちゃんと払うんだ。明日は彼女来るんだろ?」
うるせー、俺は純情なんだよ。ルルナちゃんじゃなかったらここまで熱あげてねーよ。俺の気持ちは本物だ!
「まぁ来るがな。俺の経験上娼婦を娶りたいなんていう庶民は殆どが恋愛経験ゼロだからなぁ。ま、どうしても娶りたいなら貴族にでもなるこったな。平民には無理でも貴族ならロリペド族を身請けすることは可能だ」
「差別かよ!」
なんで貴族は良くて俺は駄目なんだ?
納得いかねぇぞ。
「いや、区別だな。貴族の身請けはあくまで性欲から来るものだ。つまりモノ扱いなんだよ。そこに恋愛感情はない。だから問題ないのさ」
「どういうことだ?」
恋愛感情がないから問題ないって意味わからんし。
「今のお前には教えてやらん。もう少し頭が冷えたら考えてやる」
「なんじゃそりゃ。まぁいい、明日開店と同時に来るから彼女を指名だ。いつも通り金貨30枚払う。オールナイトだ」
ケチくさいやつめ。だったら彼女に直接聞くだけだ。どんな困難だろうと立ち向かってやるさ。貴族になればいいってんならなればいいだけだしな。
「ま、こっちも商売だ。金さえ出すなら受け付けてやるよ。じゃあ明日な」
「おう」
よし、明日は彼女を独占できる。金さえ出せば爵位だって買えるかもしれんからな。俺とルルナちゃんの前に障害なんてねーんだよ。そう、俺と彼女は結ばれる運命なのさ。
* * *
そして次の日、俺は予告通り開店と同時に来店した。俺のテーブルには彼女が座り酒の相手をしてくれている。勿論この後はお楽しみタイムだ。たっぷり愛し合った後、俺は彼女に告白するぞ。
大丈夫。これだけ金を使って独占できるほどの甲斐性を見せたんだ。喜んで俺のものになってくれるさ。
そして至福の時間を過ごした俺はいよいよ一世一代の告白をすることにした。
「ルルナちゃん聞いてくれ。俺は君が好きだ。愛してる。貴族じゃないと身請けできないのは知っている。だから俺は貴族になって君を迎えに来る。その時まで俺を待っててくれないか?」
言った!
言ってやったぜ。今俺は自分にものすごい自信を持っているからな。前世のニートだった頃の俺とは違うのさ。俺はもうヘタレじゃないんだ。
俺の告白に彼女は喜んでくれると信じていた。なのに彼女は俯き、ものすごく暗い顔する。そして俯いたままポツリと口を開いた。
「やめてください……。私にそんな価値なんてないです。ジェノスさんの気持ちは嬉しいです。でも、あなたの気持ちに応えることはできません」
それは拒絶の言葉。それを彼女は苦しそうに吐き出した。なんでそんな悲しそうに言うんだよ。一体何に対してそんな悲しみを向けてるんだ?
「なんでだよ! 俺はこんなに君を想っているのに。俺の本当の気持ちを知ればルルナちゃんだって……!」
「本当の気持ちってなんですか? それを知れば気持ちが傾くなんて幻想です。どこの夢見る少女ですか」
ぐはっ!
予想以上の辛辣な一言に俺のガラスのハートはかなりのダメージを受ける。俺ってメンタル豆腐なのか?
「なんでだよ、俺は君を毎日のように独占できるだけの甲斐性もある。君を絶対幸せにしてみせる。浮気なんてしない。だから……!」
俺以上の男なんてどれだけいるよ?
俺は絶対に彼女を裏切らないし金だってある。こんな好条件の男を振るなんてあり得ないだろ。
「無理ですよ。ジェノスさん、あなたはもう来ない方がいいです。あなたの気持ちはただの刷り込み。商売女の接客術に気持ちが通じ合ってると勘違いしているだけです。もう私はあなたの指名は請けません。試しに一月取っ替え引っ替え女を買い漁ってください。今ならすぐに私なんて忘れられますから」
「ルルナちゃんを忘れろって? 無理だよ、俺にはルルナちゃんだけなんだ!」
なんでだよ、わけわかんねーよ。忘れられるわけないじゃねぇか!
「そんなのは一時の気の迷いです。ジェノスさん、私のことは忘れてください。それがあなたのためです。さようならジェノスさん。今まで稼がせてくださりありがとうございました」
彼女は頭を下げると素早く着替え始める。それでも俺は強引に彼女を抱きしめ唇を奪おうとした。
「駄目です!」
しかし彼女は顔を背け、手で俺の唇を制する。でもそんなの関係ねぇ!
それでも俺は力で強引に彼女を引き寄せ唇を奪った。
そして頬に走る衝撃。
俺は平手打ちを喰らったのだ。
「ごめんなさい……」
彼女は泣いていた。その顔はとても悲しそうで辛そうで、そして儚かった。俺は何も言えず、彼女が俺の抱擁をすり抜ける。そして俺は彼女が出ていくのを止めることができなかった。
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