第4話 戦闘試験でイキれ!

「よし、じゃあ早速試験してやるからついて来い」


 おっさんは眉毛ピクピク、青筋ピキピキで顔も引きつってやがる。こりゃ相当怒ってるな。知らんけど。受け付け嬢の方はあわあわと俺とおっさんを交互に見て何か言いたげだ。


「じゃあ頼むわ」


 おっさんがカウンターの横方向にあるドアを開ける。俺もその後をついて行くとそこは広いグラウンドだった。そこでは剣を交えてる奴がチラホラいる。どうやら訓練場なのかもしれん。


「お前さん武器はどうする?」

「お前如きに武器か。いらんな」

「生意気な奴め。怪我しても知らんぞ。ならそこで立ってろ、俺が奥へ行く」


 いいからサッサとやれ。


「じゃあこれから戦闘試験を始める。少々痛い目にあうが自業自得だからな」

「へいへい。サッサとかかってこい」


 おっさんは腰の剣ではなく立てかけてある木剣を手に取り、俺に向かって構える。そして真っすぐ俺に斬り掛かって来た。うん、遅いな。


 おっさんは大きく剣を振りかぶり、真っすぐ俺に振り下ろす。俺はそれを3本の指で難なくキャッチした。


「この程度か」

「な、なにぃっ!?」


 おっさんは驚愕の表情で俺を見る。うん隙だらけだな。


「ほれ」


 俺はおっさんの腹を蹴る。すると軽く呻き膝をついた。今度は顔面を蹴り、おっさんを倒す。青天てやつだな。さてここからはわからせタイムだ。俺はおっさんの顔をグリグリと踏みつける。


「弱い、弱すぎるぞ貴様! そんなクソみたいな実力で俺を痛い目にあわすだとぉ? 1000年はえーわこのクソ雑魚がぁっ!」


 さらにペッ、と顔面に唾を吐きつけてやった。おっさんの顔面からは鼻血が出てるようだ。ふん、ザマァ。いやー、イキるって本当に気持ちがいいもんなんですねー。


「ま、まいった。俺の負けだ! 試験は合格でいい」

「ふん、素直に負けを認めたか。そこは褒めてやろう」


 俺はおっさんの顔から足を離す。そして少しだけ後ろに下がった。


「ま、マスター大丈夫ですかっ!?」


 ますたー?

 そう言っておっさんに駆け寄ってきたのはあの受け付け嬢だった。


「ますたーってこのおっさんのこと?」

「えーっと、この方は当ギルドのギルドマスターなんです……」


 受け付け嬢は言いにくそうに言葉をフェードアウトさせていく。そして俺から若干距離を取った。


「あー、俺がこのギルドのギルドマスターだ。約束どおり第6位に上げてやる。が、性格に少々難があるぞお前。強いのはわかったがもう少し周りに寛容的になれ」

「おっさんがケンカ売るからだろ」

「売ってねぇ。忠告しただけだ」

「いいや、売ったね。人の実力もわからず雑用でもしてろとかどうよ? おっさんはそれ言われても腹立たないんか?」


 これは曲げられねぇな。雑魚に見下されるのはムカつくんだよ。


「……それは悪かった。確かに実力のあるやつなら腹は立つな。だがそれを差し引いてもやり過ぎだ。唾まで吐きやがって、まったく……」

「そいつぁ悪かったな。これでおあいこってことで」


 めんどくせぇな。まぁ、ギルドマスターみたいだしあんまし不興買うのも良くないか。大目に見てやんよ。


「ああ、もうそれでいい。おい、第6位昇格だ。手続きしてやれ」


 おっさんはしゃーねーなと言わんばかりにポリポリ後ろ頭を搔くと、受け付け嬢に手続きするよう伝える。


「わかりました。ではジェノス様、受け付けの方へ」

「おう」


 心なしか受け付け嬢は俺を蔑んでいるように見えるんだが……?

 なんか見る目が冷たいぞ。




「アップデート」


 受け付け嬢の魔法で俺のギルド証は更新された。ランクの欄が第6位冒険者に書き換わっているのを確認する。


「これで更新は終了です。それにしてもジェノス様はお強いんですね。ギルドマスターも今は引退したとはいえ元第2位の上級冒険者ですよ?」


 口ではお世辞を言ってるが目が笑っちゃいねーぞ。あれは人を蔑んでいる目だ。俺はそういうのに敏感なんだよ。


「ふーん、あの程度でか。ところで買い取りはここでいいのか?」

「あの程度って……。買い取りは隣の解体場で行っています。そこで査定をしてもらってください」


 受け付け嬢は少し困惑した様子で買い取り場所を教えてくれた。確かにこんなカウンターで買い取りとかできんよな。どうやって運ぶねん、ってなるし。


「わかった」


 俺は早速ギルドを出て隣の解体場へと赴く。中ではなにやら豚みたいな人型モンスターを切ってる奴もいた。そして偉そうに腕を組んで見ているハゲ頭。こいつが責任者か?


「おい、ここでモンスターの買い取りをしてくれると聞いたがいいか?」

「おう。見ねぇ顔だな。そうだ。ここで買い取りを行っているぞ」


 ハゲ頭は俺を値踏みするようにジロジロと上から下まで眺める。


「そうか、じゃあ買い取りを頼む。とりあえずこいつらでいいな」


 俺はアイテムボックスからベヒーモスを一体、ファングタイガーとコカトリス、デモンオーク数体を取り出した。まだまだあるがベヒーモスもコカトリスも結構デカいからな。これだけで解体場のスペースの3割ほど埋まっちまった。


「おいおい、ベヒーモスとか第1級危険指定モンスターだぞ。コカトリスは第2級だしデモンオークも第3級だ。これ全部にいちゃんが狩ったってのか?」


 あの程度で第1級なのか。もしかしたら第1級より上があるのかもしれんが。


「そうだが、何か問題でも?」

「い、いや問題どころかバンザイ三唱したいくらいだ。すげ~なにぃちゃん。だがこれだけいると査定は今日中には終わらんぞ」

「ということはお金が入らないということか? 俺は今無一文なんだが」

「むいちもんの意味がわからんが、とにかく金が無いってことか?」


 日本の言い回しは通じないのか。まぁ金がないのはわかってもらえたようだが。


「そうだ」

「ならギルド証を出してくれ。このモンスターを担保に先払いしてやるよ。金貨1000枚でもいけるがいくら必要だ?」

「じゃあ金貨1000枚で頼む。できれば細かいのも少し混ぜてくれ」


 さすがに金貨だけじゃ不便だ。貨幣価値もわからんしな。


「それは受け付けで言ってくれ。今証書を作るから、金は受け付けでな。魔物の買い取り額から天引きという形にさせてもらうぞ」

「それでかまわん。助かる」

「じゃあちょっと待っててくれ。すぐに書くからな」


 ハゲ頭は建物内の奥の部屋へと走っていった。そして待つことしばし、ハゲ頭が証書を持って来る。


「待たせたな。これを受け付けに出せば前払いを受け取れる」

「おう、ありがとさん」


 俺は証書を受け取ると解体場を後にした。中では他の作業員の嬉しい悲鳴が聞こえていた。

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