第3話

夏の暑さがまだ残る9月中盤の頃に2.5組の彼は今日も窓の景色を眺める。お気に入りの歌を口吟みながら誰かを待っている。

「失礼します」

戸を開けて入ってきたのは、以前も来た三輪だった。

「やあ、久しぶりだね元気?」

「お陰様で元気⋯と言いたい所ですけどね」

何かあったのか、作り笑顔の中に影リを帯びている様子である。

とりあえず席へ誘導して話を聞く事にした。

「もう三輪くんも3年生か、早いね〜」

「もうすぐ受験だと言うのに、また貴方のお世話になるとは」

「俺は大丈夫だからね、それで今回は何があったのかな?」

「はい、先ずこれを見て貰えますか」

そう言って三輪が出したのは、スマホに送られてきた1本の動画だった。

画面には幼い子供が画面に向かって笑顔で座っている様子。

「先日、従兄弟から誕生日にお祝いメッセージを貰ったんですよ」

動画を再生する。


『はい、純くん喋って』

『お兄ちゃん!18歳のお誕生日おめでとうございます!』

『縺雁燕⋯お兄ちゃんは!もう逆上がりできますか?』

『僕は縺ェ繧薙°⋯せん!』

『また遊びに来てください!逕」縺セ縺ェ縺阪c⋯』

『濶ッ縺九▲縺溘?縺ォにしてます!···············殺す』


ここで動画は終わっていた。

所々ノイズが入っており、何やら暗い部屋の中を見つめている様子が途切れ途切れに映っていて、最後に子供や最初に喋った母親とは違う野太い声で『殺す』という物騒な事を言う動画。

全て見た彼はしばらく黙って頭を抱え出す。

「うわ〜、久しぶりに嫌なもの見た」

「えっ!?そんなにヤバいですか?」

三輪には原因不明のノイズと最後の声しか気付いて居ない様子。

「悪い事は言わないから、その動画消した方が良いよ」

「これ消してもまた戻ってくるんですよね」

気味が悪いと思って何度か削除して完全にデータが残らないようにするが、戻ってくるという。

日付は1999年12月32日となって。ありえない日付で登録されるし最後の声が頭から離れない。

そして三輪は以前にも助けて貰ったように今回も彼の助力を求めて来たのだった。

「なるほどね·····じゃあ幾つかお願いするけど聞いてくれるかな?」

彼が出した条件は三つ。

一つ、従兄弟の家に行く事。

二つ、高倉という男に「彼からの依頼」としてその動画を解析してもらう事。

三つ、鳳凰院という一年生と共に映し出された場所に行く事。というものだった。

「高倉さんって一昨年卒業した高倉先輩ですか?」

「ああ、高倉はこういう動画とか音声の仕事してるから詳しいんだよ」

「それと何故鳳凰院?」

「あの霊能少年は意外と強いからね、頼りになるよ」

「従兄弟に何かあるんですか?」

「それは自分の目で確かめてもらいたい」

その全ての条件を満たしたらまた来て欲しいと言われて、三輪は旧校舎を後にした。

言われた通り先ず最初は従兄弟《純》の家へ遊びに行った。

電車で数時間揺られて徒歩で30分の所にある家へは昔よく通っていた。学校の勉強などで遊びに行く回数が減っており最近は行けないでいた。

「お兄ちゃん!」

「久しぶりだな純!また背伸びたんじゃないか?」

「いらっしゃい俊くん」

「ご無沙汰してます叔母さん」

お菓子とジュースを持ってきてテーブルに並べてくれる。例の動画の事を当時聞いてみたが、叔母の携帯と撮影当初は何も問題はなかった。問題があった動画を見せてみると、怖がってあまり見てくれない。

最後に聞いた野太い声には心当たりもなく、謎のまま帰ることになった。

「僕お兄ちゃんを駅まで送るね!」

「気をつけるのよ」

純と手を繋いで田んぼ道を歩いていると、服の隙間からアザのようなものが見えた。

「どうしたんだ?そのアザ」

「え?ううん、大丈夫だよ!転んだだけ!」

「ちょっと見せてみろ」

三輪は純の服を捲って見てみると身体中にアザがあった。それは痛々しいほど青紫色に内出血をしていた。純は何も言わずに目を伏せる

「誰にやられたんだ?」

「誰でもないよ⋯」

「嘘つくな!どう見ても殴られた跡じゃないか!」

そのアザは誰かによって意図的に付けられたもので転んだでは済まされない。

「学校か?それとも·····」

「ッ!大丈夫だから!もう僕帰るね!」

純は下手くそな作り笑顔を作って来た道を走り去って行った。

後日、彼に言われた通りに駅で待ち合わせをしていると高倉と合流できた。

「お久しぶりです!本日はお時間頂きありがとうございます!」

「いいってそういうの、で?例の動画というのは?」

「こちらになります!」

高倉にメールで動画を送信して見せる。

何やら引きつった表情をしてから三輪に向き直った事からちゃんと送れたようだ。

「多分、ノイズの部分の結合と音声の解析をしろって意味だと思うな〜」

「大丈夫ですかね?」

「出来なくはないけど、時間はかかるかも。明後日とかでも良い?」

「そんなに早く!?もちろんです!ありがとうございます!」

二つ目のミッションクリアである。

そしてラストミッションは|明弘に動画を見せて例の暗い部屋を特定する事だった。

「よろしくお願いします先輩」

「悪いな、付き合わせてしまって」

「いえ、これも仕事みたいなものですから」

例の動画を明弘にも見せると、彼と同じように嫌な顔をする。

「場所の特定は出来ました」

「早っ!これだけでわかるのか?」

「少し距離がありますね、電車で行きましょう」

明弘と電車に揺られてたどり着いた先は純が暮らす家だった。

「どういう事だ?あんな部屋俺も知らないぞ」

「知らない方が良かったかもしれませんね」

明弘は臆すること無く敷地内へ入っていく。それを三輪は追いかけていくと、庭に置かれてある物置へと近付く。

「おい、これ以上はマズイって」

「今現在マズイ事が起きてます」

そんな事を言っていると、部屋の方から声が聞こえてきた。

「何やってるの?」

叔母が顔を出して怒ってきた。

「やべぇって!見つかったって!」

「奥さん、この物置開けてもらっていいですか?」

その物置は鍵が掛けられており開くことが出来ない。

「はあ?どうして開けなくちゃいけないの?俊くん、この子誰?」

「ええと、コイツは俺の後輩で⋯ええっとぉ·····」

「中にお子さん入ってますよね?」

「え?」

明弘の一言で場の空気が変わる。この中に純が?

「何馬鹿な事を言うの?その中に居るわけないじゃない」

「では、合わせて貰えないですか?」

「まだ学校よ」

「もう15時ですよ?時期的にそろそろ帰ってくる時間帯です」

「おい、鳳凰院その辺にしとけって」

なかなか引き下がろうとしない両者に時間だけが過ぎていく。

もしも本当にこの中に純が居るのだとしたら大問題である。まだ暑さが残る今の時期にこんな暗くて狭い物置の中で閉じ込められたら命の危険だってある。

「叔母さんすみません、コイツも中を見たら大人しく引き下がると思うので⋯」

拮抗状態が続いていると、外から純が帰ってきた。

「皆どうしたの?」

「純!無事だったのか!?」

「何処行ってたの?!」

「へ?友達と遊んでたけど」

中に居なくて本当に良かったのだが、その後めっぽう怒られた。そして叔母さんに純のアザの事を話すとどうやら本当に知らない様であった。学校でいじめられており、服の上から殴る蹴るの暴行を加えられていたようだ。即刻叔母が連絡をしていじっめ子を特定してその子は後に引っ越す事になった。

純の温情によってこの程度で済んだが、三輪は激怒して同じようにしてやろうかと脳裏に過ぎるが止める。

事態は一件落着という事で、2.5組の教室へ向かった。

「どうだった?」

「純、学校でいじめられていたそうで⋯」

「学校で?·····まあ、そういう事か·····」

「鳳凰院もなんだが腑に落ちない様子でしたけど、まさか叔母さんがやってると思ったんですか?」

あんなに純の事を可愛がっていて、さらに物置に居なかったことからありえないことだろう。

幽霊と言い、霊能者と言い深読みのし過ぎである。

「まあ、知らない方がいい事もあるか」

「えっ?何か言いました?」

三輪は彼に礼を言って去っていった。

後日、動画の件でメールと1本の動画が来た。

「あのノイズの部分、繋げて逆再生したんだけどさあ、これやべぇぞ」

それからあの動画も消えて、今も純は元気に暮らしています。


『縺雁燕縺ェ繧薙°逕」縺セ縺ェ縺阪c濶ッ縺九▲縺溘?縺ォ』

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