第2話

とある日の放課後、校舎二階の謎の部屋の前に立つ一人の青年。

時刻は午後四時を回った時に彼が部屋に入る。

「臨!兵!闘!者!皆!陣!烈!在!前!破ァ!」

青年は二本指で空に横に四つ縦に五つの十字を切ってその場を清める。

「……いつもこの教室を清めてくれてありがとう、霊能少年」

「お前を祓いに来てるんだよ!」

霊能少年こと鳳凰院晃弘ほうおういんあきひろは代々受け継がれている拝み屋、鳳凰院家の跡取り息子なのだ。

現代の科学は勿論、神社やお寺等で解決できない悪霊を祓うスペシャリスト集団拝み屋。その中でも古くからその家業を生業としてきた鳳凰院家は門外不出の術と強力な妖を使役する式神を有する超名門家だ。

そしてこの晃弘こそ十六代目当主候補なのである。

霊力はかなり強い方なのだが、二.五組の彼には効かないようだ。

「毎回俺の結界壊して来てよ〜特に悪い事してないぜ?」

「嘘つけ!この前も先輩の一人が不幸な目にあっただろ!」

「それ多分別件だぞ?」

二年の鈴木という女子が転校した。親の不祥事に加えて彼女自身も相当やっていていたらしい。今どうしているか等は誰も知らない。

「いい加減成仏しろ!」

「出来たら苦労しないよ」

「何か心残りでもあるのか?」

「無いよ。強いて言うならモテすぎてる事かな」

「はっ倒すぞ」

晃弘は一年生でこの学校のほとんどの怪異を攻略してきた。

夜中に鳴るピアノや魔の十三階段だの有名どころから新しい怪談を祓ってきたやり手。なのだが

「ここまで苦労したのはお前が初めてだ」

「奇遇だな俺もだ。で?今回はなんのようだ」

一連の流れはいつもの事で晃弘が来る時はいつもナニかある時だ。

「ひきこさんって知ってるか?」

「あ〜、有名な奴だな。俺の頃にもよく似たのあった」

「最近また噂されるようになった」

赤いコートを身に纏った長身の女が子供の足を引っ張って引きずり回すという物騒な怪異だ。

ターゲットは時代によって変わるため、特定が難しい。

そしてその有名さから相当強い怨念なのは間違いなく、数多くの霊能力者達が対応するも完全に祓う事が出来ないのだ。

「まあ俺たちはキミら人の負の感情で成長するからねぇ人類滅亡が先か妖滅亡が先かのチキンレースさ」

「だから俺たちが居るんだよ」

「痺れるね〜」

「お前に頼みたいのは一つ、情報だ」

晃弘はひきこさんを探すために、普段からお悩み相談をしている彼の元に行って情報を引き出すつもりのようだ。これまでのデータで考えると、今回狙われやすいのは別れたばかりの恋人が多かった。

「なるほどな、いつまでも引きずる思いでひきこさんか」

「上手い事言ってないで何かないか?」

「最近は聞いてな……」

「あるのか?」

「一年数学の先生居たよな?」

「ああ、顔の良い人が居るぞ」

「その人に恋した娘が居たけど、結婚してることを知って落ち込んでるっていう噂を聞いた事あるぞ」

一年生担当の数学教師に恋をした乙女はいつも彼の事を目で追っていたが、つい先日結婚していた事が発覚する。指輪を付けないで来ていたから分からなかったが、生徒と話す中で思わず口を滑らせてしまった。

多くの生徒が祝福したが彼女だけは素直に喜べなかったようだ。そして今でも彼の事を忘れられないで居る

「その人今何処に居る!?」

「知るわけないだろ。同じ学年のお前の方が詳しいだろ」

「俺は女子と喋ったことない!」

「余計に知らねえよ!とにかく探して来い!保護くらいはしてやる」

晃弘は教室を飛び出してその娘を探す。人型の紙に名前を書いて自分の血をつけて投げると、紙はひとりでに飛んで行った。彼女の方向へ向かっているようだ。

〜〜〜

「ねえ舞、もう諦めなよ」

「諦めてるつもりなんだけど…」

部活帰りの女子ふたりが通学路を歩いている。舞と呼ばれる少女は何やら悩んでいる

「元気だしなって、男は35億居るって言うし良い人見つかるよ」

「そうかなぁ」

舞を励ます友人とふたりで歩いていると、珍妙な紙が飛んできた。

「なにこれ?紙飛行機?」

「すみません!大丈夫ですか!」

「えっ!何?!鳳凰院が走ってくるんだけど!」

人型を追ってきた晃弘が近寄ってきて、息を荒らげている。

「えっ…キモイんだけど」

「ひきこさん来なかった?」

「はあ?ひきこさん?あんたねえ、舞が恋引きずってるからと言ってもね…」

「いいの、…ひきこさん見てないよ」

晃弘は霊力を探るも、ひきこさんの念は感じなかった。

「あれ?…でもひきこさんが来るのは……」

「何ブツブツ言ってるか分からないけど、ひきこさんは振った相手のところに行くのよ」

「えっ!?」

「だから今頃山本先生のところに出たりして、ヒュードロドロ」

「も〜、亜衣子ったら」

晃弘は先生の命が危ないと思い、来た道を戻る。

「ちょっと!鳳凰院!忘れ物!」

「持ってて!御守りになるから!」

「はあ?さらにキモイんですけど」

舞は人型の紙を持って佇むのであった。

〜職員室〜

数学教師の山本はテストに向けて問題集を作っている。

「山本先生、帰らなくていいんですか?新婚さんなんでしょ」

「ああ、構いませんよ。妻も理解してくれてますから」

「いいなぁ〜、うちの家内なんて最近弁当も作ってくれませんよ」

「ハハハ、奥様も大変なんでしょう」

「すみませんが、私はこれで」

「お疲れ様です」

今日は山本が遅番らしく、独りで残って作業を進めている。大体帰りは夜の八時前後までで十二時間労働の激務である。夫婦の写真を眺めていると、旧校舎の方に赤い服を着た女が入っていくのが見えた。(あんな服の先生居たかな?)

年為に旧校舎の鍵を持って向かうと、中に入り込んでいた。

「どうなさいました?」

声を掛けても反応がない。聞こえないのかと思い、鍵を開けて中に入る。するとそこには大きな背丈の女性が立っていた。

(鍵してるのにどうやって入った?)

学生たちが利用している隠し通路でも使ったのかと思った。

「保護の方でしょうか?」

またしても返事はない。不審に思った山本は赤い女に近付く。

「どちら様でしょうか?」

「………」

ブツブツと何かを言っている。

よく聞こえないから耳を近付けると、次の瞬間いきなり顔を上げて不気味に笑う顔がこちらを見ている。

驚いてしまい、バランスを崩して尻もちを着いてしまう。逃げようにも腰が抜けて立てない

女は彼の足を掴んで引きずっていく。とても強い力で引っ張られて抵抗しても振り解けない。

「アハハハハハ!」

赤い女は甲高い笑い声で引きずり回す。校舎の床は木で出来ていて痛みは少ないが、足を掴む手が痛い。

すると女は階段を登っていく。足を引っ張って階段を登るにつれて、段差が山本の顔や腹部をぶつける。

そしてまた廊下を歩く。どうやら校舎全体を回るようだ。

「アハハハハハ!!」

「いい加減離せ!」

掴む腕を蹴ってもビクともしないおろか、握る力が強くなる。骨がミシミシと音を立てる

「おい、その人を離せ」

急に何処からか声がして赤い服の女が足を止める。周りを見ると噂の教室で止まっていた。

赤い服の女は先程までの笑みは消えて鬼の形相で扉を見つめている。

「未練がましい奴がお好みなら此処にいいのが居るぞ」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

女は戸を蹴破って中に入って行く。そこには例の男子生徒が待っていた。

掴んでいた足を離して彼の元へ走っていき、大きな手が首元を掴む。

「おいおい、足引っ張っるのが芸じゃないのか?」

「あ゛あ゛あ゛!!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

「もはや言葉まで忘れたのか」

首を絞められているのに彼は平気そうに女を睨みつける。

「未練がましいのはわかるが、人様に当たることは無いだろ。危害を加えるのは御法度なんだぞ」

「先生!!大丈夫ですか!?」

「鳳凰院!」

晃弘が駆けつけて山本は保護された。相当走ったようで息を荒らげながら汗だくになっている。

「待ってろ!今助けてやるからな」

「いや、必要ない。それにコイツはお前にはまだ早いかもな」

彼は首を掴む手を握ると白い腕が砂の様に崩れていく。

「あ゛あ゛!?」

「気安く触るなよ。俺に触れていいのはアイツ・・・だけだ」

赤い服の女が逃げようとするが、戸が閉まる。

「つれない事するなよお嬢さん、ここから先はお子様には早いからな」

「イ゛イ゛ャャャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」

ものすごい断末魔が教室の向こうで聞こえてくる。耳を塞ぎたくなるその叫びは酷く苦しそうである。

数秒断末魔が響いたあと、静寂が訪れた時に扉が開いた。

「終わったお♪」

「何をした?」

「スゴイ事♡」

晃弘は彼と話しながら山本の方を見る。どうなってしまうのかビクビクしていると、男子生徒が話しかけてきた。

「山本先生、今日あった事秘密に出来ますか?」

「え?」

「赤い服の女と今ここでおきた事を誰にも話さない事。勿論奥様にも」

もし喋ったら自分もああなってしまうと思った山本は約束した。

晃弘が救急車を呼んで階段から落ちたという事にしたのだが、山本先生の足には真っ赤な手形がついており骨にヒビが入っていた。事件とも捉えられるが、手形を作り、足の骨にまで影響を及ぼすのに必要な握力は80を超えてないと出来ない。さらにこの手形は女の手形な為、握力80の女が足掴んで転ばせたなんて言えないから事故という形になった。それを聞いた生徒が面白がり怪談話になる

それ以来ひきこさんの目撃情報が無くなって一件落着という事になったのだが。

「祓ったのか?」

「まさか、アレは祓っても無くなる類じゃないさ」

「どういう事だ?」

「俺ら怪異は結局人間様の心の膿から生まれる様な者だからアレはまだ何処かでやってるよ」

「つまりアレだけじゃないのか?」

「ほんの一部だったね、でも相当強い想いだったよ」

全国でも囁かれる都市伝説は貴方の地域にもいつか現れるかもしれません。

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