第5話
プロローグ
僕は冷党(ひやとう)だ。
うだるような暑い日に、僕は氷水を頭からかぶる。重くなっていた体は突然の刺激に目を覚まし、朦朧としていた脳みそは悲鳴をあげて跳ね上がる。氷水さえあれば、夏バテとは無縁だ。
凍えるような寒い日に、僕はかき氷を五個食べる。凍える体はさらなる冷却で震えだす。それは振動と言っても良い。自分ではコントロールの利かない、生物の本能。ひとしきり振動したあとに深く息を吸ってみると、僕は全く寒さを感じない。かき氷さえあれば、寒い冬を乗り越えられるというわけだ。
人生の悩みを抱えた時、僕は氷風呂に入る。氷風呂の作り方は、自宅の浴槽に水を張り、氷をたくさん入れるのだ。氷はたくさん必要だ。普通の冷凍庫で作れる量では足りない。だから、僕は近所のスーパーから氷をもらってくるんだ。どのくらいの量かというと、ざっと数えてかき氷五十個分くらいかな。
仕事中はずっと額に冷却シートを貼っている。そうだよ、風邪ひいた時に貼るやつね。僕の仕事には冷却シートが欠かせない。人間の脳みそというのは不便なもので、少し考えごとをしただけですぐにヒートアップをする。それを放っておくと故障してしまうから、冷却シートでヒートアップを防いでいるというわけさ。
寝る時の枕は氷枕、お腹には腹巻をして保冷剤を入れている。内臓を冷やすのは良くないって、僕もその説は知っている。けれど内臓にだってこの冷たさという快感を味わってほしい。僕はなるべく、みんなに平等にしたいんだ。
他にもやっていることはたくさんある。僕は世界一熱心な冷党だ。
冷たさは正義、冷却は王道、冷静は賢さだ。
そんな僕は、困っている人々を少しでも助けようと、なんでも屋さんを開いている。
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